第3話

 野放図な草原。真ん中に半身が裂けた樫の木がある。姉は最期の時ここにいたのだ。木の幹には姉が描いたと思しき相合傘がまだ残っている。

 僕はその下にスクールバッグを置き、中から凧を取り出した。小学生のときに親に隠れて作った特別製だ。これなら雨に濡れても破れない。糸の先には鍵をくくりつけてある。

 遠くで雷鳴がした。風雨がばらばらと全身を打つ。傘は途中で差すのをやめた。深く息をすると、草いきれと雨の混じった匂いがした。

 手を伸ばし、凧を荒涼とした風にのせる。凧は不安定にぐらぐらと暴れ、やがて上昇した。重く暗い雲に向かって飛んでいく。

 いきなり何かが身体にぶつかった。泥水を跳ね散らかしながら草地に転がる。それでも凧糸を放さないでいると、覆いかぶさって来た影は必死に僕の拳を開こうとする。放すものかと抵抗し、しばらく揉みくちゃになった。でも、間近にある鴇の顔があまりにも必死なものだから、急に笑えてきてしまって、僕は糸を手放した。自由の身となった凧が更に空高く上昇していく。僕は代わりに鴇の顎を掴んで口づけた。

 

 捕まえた。

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