第3話
野放図な草原。真ん中に半身が裂けた樫の木がある。姉は最期の時ここにいたのだ。木の幹には姉が描いたと思しき相合傘がまだ残っている。
僕はその下にスクールバッグを置き、中から凧を取り出した。小学生のときに親に隠れて作った特別製だ。これなら雨に濡れても破れない。糸の先には鍵をくくりつけてある。
遠くで雷鳴がした。風雨がばらばらと全身を打つ。傘は途中で差すのをやめた。深く息をすると、草いきれと雨の混じった匂いがした。
手を伸ばし、凧を荒涼とした風にのせる。凧は不安定にぐらぐらと暴れ、やがて上昇した。重く暗い雲に向かって飛んでいく。
いきなり何かが身体にぶつかった。泥水を跳ね散らかしながら草地に転がる。それでも凧糸を放さないでいると、覆いかぶさって来た影は必死に僕の拳を開こうとする。放すものかと抵抗し、しばらく揉みくちゃになった。でも、間近にある鴇の顔があまりにも必死なものだから、急に笑えてきてしまって、僕は糸を手放した。自由の身となった凧が更に空高く上昇していく。僕は代わりに鴇の顎を掴んで口づけた。
捕まえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます