第2話
放課後、教室を出てすぐ鴇に遭遇した。電気が点いていてなお暗い廊下に突っ立って、ぼんやり窓の外を見ている。
「やだ~トキ、黄昏ちゃってどうしたの~」
「こいつのことだ。どうせ飯のことしか考えてないでしょ」
というクラスメイトの野次に、鴇は苦笑しつつ「そーそー、腹減った!」などと返している。その視界の端で僕を見つけたのか、彼は一瞬真顔になった。僕は気づかなかったふりをして廊下を曲がり、階段を降りる。「碧井、」という声が追いかけてくる。
「何?」
僕は振り返った。呼び止められたのは初めてだ。
鴇は僕のいる踊り場まで下りてきて、幾分落ち着かない様子で
「その、元気?」
と聞いた。僕は頷く。
「元気だよ。そっちは?」
「うん、俺も元気……って、ハハ、なんか英語の授業みたいだな」
彼は少し笑ったが、僕が笑わないので、少し気まずそうにした。彼は咳払いを一つして本題に入った。
「お前、まだ“実験”してるだろ」
「してるけど」
間髪入れずに答えた。
「してるけど、何?」
彼は一瞬怯んだようだった。でもすぐに険しい顔になって、
「……どれだけ危ないかわかってるんだろ。なんで続けるんだよ」
僕はじっと鴇の目を見た。鴇も負けじと睨み返してきたが、やがて堪えきれなくなったように目を逸らした。
踵を返す。腕を掴まれる。僕はもう一度振り返って彼の胸倉を掴んだ。
「あのさあ、お前こそ、どれだけ危ないかわかってるのか?」
顔を見ずにそう言うと、息を呑む気配がした。
「あれっ、トキじゃ~ん!」
その時、彼の後ろから能天気な声が聞こえた。手を放し、階段を降りる。
「なにあいつ、絡まれたの?コワ~」
「トキどんまい!てか一緒帰ろ~」
「傘持ってきた?」
「トキ?大丈夫か~?」
数人の声が降ってくる。今度は「碧井」と呼ぶ声は追いかけて来なかった。
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