第6話 side女騎士クリス2

「…答えろ。なぜ、シーラお嬢様にあのような仕打ちを行った?傷一つ付けずに大切に御守りしろと厳命されていたはずだ。」


―ザシュッ!


「ぎゃぁぁぁぁぁッ!…お、御貴族様と平民との間に生まれた表に出せない非嫡出子だと思ったんですぅぅぅぅぅぅぅッ!あ、預けたきり一度も様子を見に来ないんで、てっきり見捨てられたもんだとばかり…ぎゃぁぁぁぁぁッ!」


―ザシュッ!


「シーラお嬢様は、マクスウェル公爵家当主と隣国リンク王国第三王女である奥方様との実子で、お前の想像を超える身分の御方だ。身分が高すぎて生まれた直後から政敵に命を狙われるほどのな。」


―ザシュッ!


「ぎゃぁぁぁぁぁッ!そ、そんな御方を、な、なぜ、こんな田舎の牧場などにぃぃぃぃぃ!?ぎゃぁぁぁぁぁッ!」


―ザシュッ!


「シーラお嬢様を新しい女王にしたい勢力が力をつけて、手がつけられなくなったのだ。だから、貴族の影響力の及ばない地で一時的に“牧場の娘”として保護してもらう必要があったのだ。結果的には、一番預けてはいけない奴に預けてしまった形になったがなぁぁぁッ!」


―ザシュッ!


「じょ、女王候補…、ひぃ…、ひぎゃぁぁぁぁぁッ!う、腕がぁぁぁぁぁぁッ!」


―ザシュッ!


「腕くらいで騒ぐな。次は足だ。」


―ザシュッ!


「うぎゃぁぁぁぁぁぁッ!ゆ、許してくださいッ!な、なんでもしますからぁぁぁッ!うぎゃぁぁぁぁぁぁッ!」


―ザシュッ!


「許すわけがないだろう。一族全員に生き地獄を味会わせてから、例外なく惨たらしく殺してやる。もちろん、子どもだろうが老人だろうが一切容赦はしない。…ああ、孫が3人いるみたいだな。シーラお嬢様と同じ以上の苦痛を与えてやるから安心しろ。ゴキブリを生きたまま食べさせれられるなんて、普通の奴隷でもなかなか経験できんぞ。」


肢体を切り刻まれ、ボロ雑巾のように地面をもがく中年女が、クリスを怒りの形相で睨み付ける。


「はぁ…はぁ…、だからといって、ど、どうして、こんな酷いことができるん…ふぎぁぁぁぁぁぁぁッ!」


―バキッ…


「その言葉、そっくりそのまま返してやる。

貴様のこそ、一家が数十年豊かに暮らせるだけの金銭を受け取っていたにも関わらず、シーラお嬢様を虐げ続けた?貴族の娘を虐待するのは楽しかったか?幼い頃に貴族から受けた仕打ちに対する鬱憤でも発散できたか?」


「な、なぜ、あの事件ことを知って…、ぎゃぁぁぁぁぁッ!」


―バキッ…


「先ほど、間抜け面で帰ってきた貴様の亭主が吐いたのだ。隣の部屋で命乞いを繰り返しているぞ。そうそう、その事件を起こした田舎貴族とやらにシーラお嬢様を何日かレンタルするビジネスをしていたそうじゃないか。おっと、気絶なんてするんじゃないぞ。」


―バキッ…


「ぎゃぁぁぁぁぁッ!…ははッ!アタシの人生は、貴族に狂わされっぱなし…ふぎゃぁぁぁぁぁッ!」


―バキッ!


「都合よく人のせいにするな。すべて己の招いた結果だろう。貴族に狂わされたとほざきながら、自分からその貴族にすり寄るなど、自分の都合の良いように物事を解釈しすぎだろう。呆れ果てて、ものも言えん。」


―バキッ!


「ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁッ!…ふははッ!…きゃは、…きゃははッ!…シーラって言ったっけ?あのゴミの心は完全に壊してやったよッ!悔しいだろ?よ~く考えたら、アタシは平民では声をかけることすらできない大貴族の令嬢の心を壊したんだッ!アタシは大貴族に一泡ふかせてやったんだッ!ふははッ!こんな愉快なことはあるかい?ふははッ!」


―バキッ!


「ふぎゃぁぁぁぁぁッ!」


「フハハッ!残念だったな。シーラお嬢様の心は壊れてなどいない。忘れたか?一切怯えることなく、貴様の目の前で悠然と真実を語ったのだぞ。今までもそうではなかったのか?最初はちょっとだけ怯えさせようとしたが、全く怯える様子がないからエスカレートしたんだろう?シーラお嬢様は、最初から貴様には恐怖など抱いていなかったのだよ。」


―バキッ!


「ふぎゃぁぁぁぁぁぁッ!…あのゴミィィィィィ…グギィィィィッ!」


―バキッ!


「しかし、貴様の下らない貴族への復讐心のお陰で、シーラお嬢様は人間全体に嫌悪してしまったがな。これは、時間をかけて溶かしていくしかあるまい。」


…ピピッ!


オレルアンから念話の魔道具によるメッセージが届く。


『クリス様。シーラお嬢様が逃走を図りました。至急応援をお願いします。』


…応援が必要だと?オレルアンだけでは引き留めできないのか?加護持ちとはいえ、相手はまだ子どもだぞ?…


「それほどか?」


『はい。あのスキルの数やレベルに加えて、精神の高さと高位の加護が作用しているためか、身のこなしやスキルの使い方が子どもとは到底思えません。これは、訓練された精鋭の騎士と同程度かそれ以上と考えた方が良いでしょう。』


「…今行く。決して見失うなよ。」


『了解しました。』


…シーラお嬢様には、公爵令嬢としての価値を遥かに上回るものがある可能性がある。なんとしても、連れ帰らなくては。…

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