第4話 鬼ごっこ
風呂に入り、ドレスを着させられて、数年ぶりにまともな食事を摂った。
…おいしい御飯だけはどこでも正義…。早くこの人達とサヨナラして、人と関わらずに美味しいものを食べてひっそりと暮らそう。…
食事をしている私の姿を見ながら隣で控えている女騎士のクリスが、穏やかな表情で話しかけてくる。
「シーラお嬢様。お口に合いましたでしょうか?このような場所に滞在のするは、甚だ不快かと思いますが、夜が明けるまでの辛抱です。何卒、ご容赦願います。」
私が頷くと満足したのか、クリスは優しい笑みを浮かべてお辞儀をした。
「シーラお嬢様、ありがとうございます。それでは、私は“ひと仕事”をしなくてはいけませんゆえ、いったんお側を離れさせていただきます。何かございましたら、あちらに控えておりますオレルアンに何なりとお申し付けくださいませ。それでは、失礼いたします。」
そう言うとクリスは部屋から出ていった。
…“ひと仕事”とは、十中八九、中年女からの聞き取り。そう考えると、脱出は、女騎士が“ひと仕事”しているタイミングしかない…。あの二人の揃っている状態では到底脱出はできる気がしない。でも、注意すべきはクリスよりもオレルアンかもしれない。オレルアンは、クリスよりも強くないけど、気配を探ったりする能力は高そうだから。…
食後のお茶を飲み終えると、オレルアンから寝室に移動するように促された。
案内された部屋は、幸運なことに脱出に適した位置にある1階の部屋だった。
「…オレルアンさん。…色々と…、ありがとう…ございました。…それでは…、おやすみなさい。」
オレルアンに挨拶をして部屋の中に入ると、遠ざかっていく足音を確認しながら部屋の灯りを消して窓を静かに開けた。
…よし。今がチャンスだ。…
全身から身体強化のオーラを生み出し、練り上げていく。
―”身体強化”―全開―
練り上げたオーラは視認できるほど濃密になる。
そして、脚力を強化して一気に窓を飛び越える。
―シュタ…
窓を飛び越え着地すると、すぐさま周りを見渡す。
…このまま、森の中に入っていけば…。
…ッ!!…
目線の先に人影が見えた。
…男騎士-オレルアン-…。やはり、そう簡単にいかないか。…
「シーラお嬢様。どちらにお出掛けですか?」
オレルアンが暗闇の中に紛れるようにそっと佇んでいた。
…でも、もう後戻りできない。ここで捕まれば、今以上に厳重に管理されて逃げられる可能性が低くなる。…
「どうか…見逃してください…。私は…もう人間の世界では暮らせない。」
オレルアンは悲しそうな表情で答える。
「…申し訳ありません。…それは出来かねます。」
…こちらも引けない。邪魔をするなら容赦はしない。…
「…そう。…残念…です。」
―ピィィッ!
私は指笛を鳴らしながら、オレルアンに向かって走り出す。
―「”足止めをお願い”」―
―バサバサ…バサバサ… … …バサバサ…
テイムスキルで召喚した夥しい数の蝙蝠達がオレルアンの視界を塞いでいく。
「な、なんだ?これは!?…ッ!…”テイムスキル”で使役した蝙蝠!?」
必死で蝙蝠を振り払っているオレルアンの横を全速力で走り抜ける。
身体強化
―”オーラバースト”―
ジェットエンジンをイメージし、地面を踏み切る瞬間に合わせて足裏のオーラを一瞬爆発させて一気に加速する。
「身体強化のオーラを爆発させて、急加速したッ!?は、速いッ!…こ、これ程までとはッ!」
…このまま距離を離していけばッ!…
氷魔法
―「“アイスフィールド」―
―ピキッ―
濃密な魔力が籠めた声が暗闇に響くと、周囲の地面がアイスリンクのように凍りついた。
…女騎士-クリス-の氷魔法ッ!?地面を凍りつかせて機動力を奪うつもりか?…そうはいかないッ!…
身体強化
―“スタッド(鋲)”―
足裏に纏わせているオーラを無数の鋲状に変化させた。
……機動力が下がらない。これならいけるッ!。…
鋲状のオーラがしっかり地面を掴み、機動力を阻害されることなく走り続ける。
凍りついた地面を難なく走る姿をみて、オレルアンは戦慄した。
「オーラを変化させている…?身体強化スキルを応用して、氷上の上を難なく進んでいる?あり得ない…。」
クリスはあるひとつの答えにたどり着いた。
「ステータスの加護の欄が文字化けしていたが、これは…神級の加護を有しているとしか考えられない…。…ッ!…ハハッ、命を賭してでもお引き留めしなくてはいかなくなったなッ!オレルアンッ!」
「はッ!」
オレルアンは頷くと、懐から投擲用の短剣を取り出しスキルを発動させる。
影魔法
―「“影縫い”」―
黒い靄のようなオーラを纏った短剣が、私の進行方向の先に向かって投擲された。
…こちら進行方向の地面を狙っている?これは、着弾地点にいる対象の行動を阻害するスキルと考えるべき。多少無理しても余裕をもって回避しなくては。…
身体強化
―”オーラバースト”―
暗視スキルで短剣の着弾地点を予測しながら、使い余裕をもって回避する。
スゥ―
…かなり余裕をもって回避できた。行動も阻害されていない。うん?あの短剣…。…
回避されて地面に刺ささった短剣は黒い靄のようなオーラを纏ったままだった。
ヴゥン―
オレルアンは自分の足元に黒い渦を発生させる。
影魔法
―「”影渡り”」―
シュン―
オレルアンが渦に飛び込むと、短剣の位置に一瞬で移動していた。
…影魔法?せっかく、ようやく空けた距離が一瞬で詰められた。…
影魔法
―「“影拘束”」―
至近距離に移動してきたオレルアンから影が伸びてくる。
…この影に捕まったら終わりだ…。…
身体強化
―”オーラブレード”―
右腕に纏わせているオーラを刃の形状に変化させて迫ってくる影を凪ぎ払う。
「…今度は身体強化のオーラを刃の形状に変化させたのですか?…末恐ろしい…。しかし、オーラごと拘束させてもらいます。鬼ごっこは終わりですッ!シーラお嬢様ッ!」
凪ぎ払ったはずのオレルアンの影が、オーラの刃にまとわりついてくる。
…この影は危険。…
身体強化
―“オーラショット”―
まとわりついた影ごとオーラの刃を切り離して、オレルアンに向けて発射する。
「オーラを切り離したッ!?…ッ!切り離したオーラが形状を保ってこちらに向かってくる!?あり得ないッ!…クゥッッ!」
オレルアンは短剣で受け止めると、自分に影拘束が発動する。
バシィ―
影拘束により自由が奪われ、オレルアンは膝をついた。
「ウゥゥ…。自分のスキルに拘束されるとは…。」
…よしッ!このまま逃げ切ってみせるッ!…
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