第3話 side女騎士クリス
五年間に渡る戦乱に勝利したマクスウェル家に仕える私は、当主様より”ある密命”を受けて辺境の地へと馬車を走らせていた。
「クリス様。目的地が見えて参りました。」
従者のオレルアンがいつものように真面目な表情で報告を行った。
…隠密行動に長けたオレルアンを今回の従者に選んだ判断は正解だったな。周囲に気付かれないよう馬車や宿の手配等を完璧にこなしてくれたおかげで、何事もなく目的地に到着することができた。…
私達は目的地に着くとすぐに馬車から降り、目的地である家屋に向かおうとしたが、家屋には人の気配がなく留守のようだった。
「クリス様。留守でしょうか?」
「いや。留守であるはずはない。保護期間中は、御嬢様を敷地の外には連れ出さずに厳重に御守りするように厳命しているはずだからな。」
オレルアンと一緒に周囲を調べていると、厩舎に人間の気配を感じ、近づいてみるとボロを着た小さな子どもが家畜の世話をしている様子だった。
…あのような小さな子どもが一人で…、…ッ!!!…あの年で身体強化のオーラを自然体で纏っている?…ッ!!!よく見れば、頭から血を流しているではないか?…ッ!!!!!”隷属の首輪”まで着けて…。…
後で控えていたオレルアンもそれに気づいたらしく、眉をひそめていた。
「嫌な予感がするな。オレルアン。行くぞッ!」
「はッ!」
近づくと、子どもは無言で糞尿のまみれの地面に膝をついて平伏を始めた。
…子供の奴隷か…?…しかし、髪の色など近くで見ればみるほど、伝えられたシーラお嬢様の特徴に似ている…。まずは、名前を聞いてみよう。さっきから、ずっと嫌な予感がして胸がざわついている。…
「貴女のお名前をお教えいただけますか?」
名前を訊ねると、暫くの沈黙の後、子どもが顔をあげて辿々しく話し始めた。
「…ご主人様…より、…許可なく…自分の…名を名乗るな…と言われて…おります。…どうぞ、…私のことは…“ゴミ”…と…お呼び…ください。」
そう言うと子どもは再び顔を伏せた。
私は、我を忘れる程の怒りをおぼえた。
…これは…。例え奴隷であっても子どもにして良い仕打ちではない。それに、私の直感がこの子がシーラお嬢様であると告げている。………。もはや一刻の猶予もない。“鑑定のスクロール”で早急に確かめるべきだッ!…
怒りを抑えられない状態で触れることを申し訳なく思いつつも、子どもを抱き上げた。
子どもは、抱き上げられることに馴れていないのか、顔面蒼白で硬直した状態のまま動かなかった。
…頭の傷は塞がっているみたいだが、身体中にアザがある。臭いも酷い。よほど、劣悪な環境で育ったのだろう。…
「怖がらせてしまい、申し訳ありません。お名前を言うことが難しいのであれば、貴女に”鑑定のスクロール”を使用させていただいてもよろしいでしょうか?」
子どもが頷くのを確認したあと、後ろで控えているオレルアンから”鑑定のスクロール”を受け取り、静かにひろげた。
“鑑定のスクロール”から魔法陣が展開され、子どものステータスが目の前に表示された。
シーラ=マクスウェル/女/7歳
状態:頭部骨折、頭部裂傷、隷属
肉体-F
精神-S
スキル:苦痛耐性(Max)、物理耐性(Max)、魔法耐性(Max)、病毒耐性(Max)、悪食(Max)、胃酸強化(Max)、歯顎強化(Max)、丸呑(Max)、自己治癒(Max)、肉体強化(Max)、夜目(LV-5/10)、テイム(LV-4/10)、治癒魔法(LV-3/10)
加護:%&¥
―ザワッ…
…この御方は、間違いなくシーラお嬢様だ。マクスウェル家の象徴でもある治癒魔法スキルを持っている。しかも、この御年で治癒魔法レベル3とは控えめに言っても天才だ。誰からかわからないが加護まで受けている。これが精霊以上の存在からの加護であれば価値は計り知れない…うん?……
―ピキッ…
他のステータスを見た瞬間、頭の中が真っ白に塗り替えられた。
…な、なんだ?悪食スキルだと?腐った死体などを食べなくては生きていけない荒廃した都市のスラムの孤児にしか発現しないと言われているスキルだぞッ!!!…そして、驚くべきは耐性スキルの種類とレベルだ。どれ程の拷問を受ければ、このステータスになるのだ?…
抑えきれない殺気が更に強くなり、魔力が外に漏れ始める。
…よくもッ!マクスウェル家のご令嬢にッ!こんな仕打ちをしてくれたなぁぁぁぁぁぁッ!…
漏れ出た魔力が冷気を帯びて周囲を凍りつかせていく。
「クリス様ッ!殺気と魔力波を抑えてくださいッ!その子が死んでしまいますッ!」
オレルアンの声で我を取り戻した。
「す、すまない…。この御方のステータスを見た瞬間、怒りが抑えきれなくなってしまった…。…お嬢様…。申し訳ありませんでした。」
オレルアンは、悲痛な表情でシーラお嬢様を見つめながらため息をついた。
「ふぅ。その反応から察すると、その御方がシーラお嬢様なのですか?」
私は俯いたまま、シーラお嬢様を抱き締めながら力なく答える。
「そうだ…。お前も見てみろ。」
オレルアンは“鑑定のスクロール”を受け取り、シーラお嬢様のステータスを見ると驚愕のあまり表情が固まった。
「こ、骨折…裂傷…隷属…?…な、なんだ?こ、この耐性スキルは??暗部の育成でも、ここまでレベルまで育たない…。ど、どんな生活を送っていたというのだ??大貴族マクスウェル家の大切な令嬢と知っていたのか?知らなかったとしても、牧場主には保護料として十分な金銭を渡していたはずなのに、何故…?」
…辺境の地すぎてマクスウェル家のことをよく知らなかったか。くそ…。…
「敵対勢力に悟られないためとはいえ、金銭だけ渡して五年間様子を一度も見に来なかったのだ。放逐されたとでも考えて、奴隷にしようと考えたのだろう。愚かな…。」
…本当に愚かな連中だ。手を出してはいけないものに手を出したのだ。一族全てを根絶やしにしてもまだ足りないぞぉぉぉッ!!!…
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