天才怪盗は転生した異世界で魔法の才覚が無くても生き延びる

神出鬼没

プロローグ 怪盗、転生する


「そっちだ!」

「捕まえろ!」


高層ビルに響く警察達の声。その声から逃げるために声が聞こえてくるほうの逆の方へと俺は逃げる。


周りは暗く暗視ゴーグルが無くてはとても動くことできない。


しかしそんなものを着けていたら懐中電灯を照らされただけで目がくらんでしまう。


だから私はそんなものには頼らず己の記憶にあるビルの内部構造のみでビルの中を逃げ回る。


私はこのビルの構造をすべて熟知している。怪盗は常に完璧でいなければいけないのだ。


瞬時に完璧な判断をするためには脳の中で全てを処理してしまうのが一番早くて確実なのだ。


完璧。そんな私は『怪盗K』という名で世界から呼ばれている。


元々は11代目の怪盗ということで怪盗ナンバー11という名前だったが名が世界に蔓延るにつれその名が怪盗Kへと変化していた。


どうやらアルファベットの11番目が『K』ということでこの名がついたらしい。


だけど、私は自分の呼び名にさして興味はわかない。


何故なら私には実名が無くて任務の都度、自分の名前を偽装し、人をだましてきたからだ。


何千とこの世界に存在している自分の名が今更一つや二つ変化したところで気にはしない。


けれど一番世界で通っている自分の呼び名である以上、無下には出来ない。


 胸に今回盗んだ財宝を大事に持ち、警察の目を欺いて高層ビルから逃げ出す。


警報ベルが鳴り響き、警察が狼狽している最中、私は今夜も闇夜に溶け込んだ。


今日も逃げきった。緊張感が解けて安堵ともに俺の心に余裕と隙が生まれる。


その瞬間だった。


突然、胸に抱えていた今回の盗んだ大きな宝石が光りだした。


その光は人間の目をくらますには十分すぎるほどだ。


それは俺も例外ではなかった。


俺の視界は完全に光で閉ざされてしまったのだ。


予期せぬ事態に俺の心臓の律動は前例を見ないほど激しくなっていた。


おかしい。今回だって何度も警察を調査して警察の作戦を丸々把握していたはず。


このお宝だって盗む前にスキャンをかけて入念に調べたうえで盗んだはず。


今回も完璧だったはずなのに。


なのにどうして急にこんな光を発したのか。


とりあえず考えている暇はない。ここから逃げなければならない。


だが、一瞬だった。たった0.1秒だけそんなことを考えていただけなのに。


俺の心臓はまばゆい光の中、何者かによって突き刺された。


何度も人を葬ってきたから分かる。俺の胸にあるこの刃物は俺の心臓の大動脈を的確に突き刺していた。


プロ、いやそれ以上の技術だ。ほんの一秒足らずの間で。


油断していたとはいえこの私…俺を一瞬で殺すなんて俺と同等のステージに立っていなければ出来ない。


というかまずいなこれは。これは誰にだって分かる。


死ぬな…俺。


睡魔ともまた違う眠気。瞼が重く、体温が一気に下がっていく。


何百、何千と人の命を奪ってきたが死ぬというのはこういう感覚なんだな。


だけど、なぜだろうか。うわさに聞く走馬灯とやらが全く流れてこない。


それに不思議と生きたいという感情が湧いてこない。


涙ももがきもせず、苦しみも悲しみも無く、ただ俺はその場に倒れてその時を待ち続けている。


 先ほどまで白かった視界はやがて真っ暗になり、俺はこの世を去った。



 …はずなのに。


亡くなってからどれくらい経ったか分からないが、俺は自分の命があるのが分かった。


助かった…?いやそんなはずはない。確かに俺は死んだはずだ。


しかも刺されたはずの胸の痛みがない。 


死んだとあきらめた俺は不可解な今の状況に疑問を持ちながらもゆっくりと目を開けて体を起こした。


「ここは?」


辺りを見渡すと草が茂る広い平原が広がっていて、遠くには街らしきものも見える。


その中に俺はいた。


生きているのを確認するように手を何度か握り典型的に頬を軽くたたく。


天国かここは?世界中の全ての地を把握している俺だがこんな景色の平原は知らない。


だから自然と俺はそう思っていた。


 しかし、天国かどうかは分からないが、ここがどこか調べてみないことには始まらないよな。


 俺はとりあえず、少し遠くに見える古風な石の障壁に囲まれた大きな街へと向かうことにした。


 常識で考えて死んだのに生きているうえ、見たこともない場所に飛ばされているというありえない現象に起きているのになんだか夢心地な俺。


 そんな俺にはここが異世界であるという事実が思考には存在しなかった。








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天才怪盗は転生した異世界で魔法の才覚が無くても生き延びる 神出鬼没 @hiratonozomu

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