トラブルユーザーの苦難

7

 カエルの鳴き声が真昼のセミなみにうるさい夜。

 明かりといえば月、星、それからいつ折れるか分からない老朽化した木製の電柱の電球。


「昼はセミ、夜はカエル、耳が休まらないなぁ」


 あぜ道が続いている。

 この先にあるのは、あの神様がいる山。


「夜は出歩かない方がいい、か……」


 あぜ道を歩いていて思いついたのは、単純に暗いせいで田んぼにドボンっと落ちてしまうから外に出ない方がいいという話かもしれない……というあまり面白くないオチだ。

 逆に何を期待していたのかと、聞かれると困るけれども。


 強いて言うなら、お化けとかが出てきてくれてもいい。夏の風物詩といえば、やはり海などに続いてホラーが入ってくるものだ。


「お化けが出るにしても、やっぱり誰か女の子連れてくるべきだった……礼鳴とか起こすべきだったなぁ」


 あぜ道を歩いていると、沈みかけの錆びた看板やら、1箇所に集められた不気味なほど大量な風車やらが目につくがこれと言って怪異には出会わなかった。


「電話ボックスか、明らかに幽霊とか出そうな……」


 鈍く光る嫌に汚い黄色の明かりで照らされた、

電話ボックスになんとなく入ってみた。

 中に入ると、外が吸い込まれそうな程に暗闇なことに気付かされる。

 ふと緑の電話機に、『どろどろ』と落書きがされていることに気づいた。


「礼鳴に電話でもしてやろうか……あ、お金無かった」


 所持金はゼロ円、持ってきたのは懐中電灯と神様にお供えする用のラムネだ。1本でもお供えしておけばあの豊満なモフモフをもふもふさせてくれることだろう。


「またこの看板か、危険……敷地内?での事故は……かな」


 斜めに傾いて文字が見えない、それどころかところどころ錆びていて文字が掠れてもいる。ここまで解読できただけでも十分にすごいのだ。

 先程と看板がかなり似ているので、解読はやりやすかった。


 それからしばらく歩いたが、目の前の山は近そうに見えてなかなか歩いてもたどり着けない。まあ、山なんてだいたいそんなものだ。


「この風車、なんの意味が……」


 本当に不気味だ。色とりどりの風車が1箇所に大集合している。風はほとんどないので、風車は回っていない。

 最初歩いた時点から、この風車の集合体や看板は何度か見た。田舎なんてだいたい同じ景色が広がっていると言えばおしまいなんだが。


 なんだか、べっとりとした泥沼の泥に沈むような蒸し暑い空気が喉元から体に巻きついて嫌な感じがする。

 蛇に丸呑みにされたような、不快感だ。


「あれ、この電話ボックス」


 なんとなく、また電話ボックスに入ってみた。相変らず、中から覗く外は暗く先は見えない。


「どろどろ……」


 電話機の落書きを見て、今、疑念は確信へと変化した。

 僕は先程から、同じ道を何度も繰り返し歩いている。


 それも、一本道で……だ。

 どんな方向音痴でも、一方通行で迷子にはなるまい。

 つまりこれは────何かしらの怪異だ。

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