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 町に降りてくるとどこか懐かしいような街並みが、古めかしい木々の壁と頼りない裸電球の着いた電柱と共に迎え入れてくれた。

 僕は今、駄菓子屋に居る。様々な駄菓子はもちろんの事、シールやメンコ、かき氷や瓶コーラが売られている。


「やっぱりシロップはメロンに限るね!」

「かき氷のシロップは、色が違うだけで味は同じらしいぞ」

「そんな訳ないよ!ね、そうでしょーおりさんー」


 折さん、と呼ばれたのは天使。

 性別は存在していないらしく、両方の面から見ても美しい容姿、背中から純白の翼が生えていて、黒いタキシードを着ている。

 髪は白く、瞳は海よりも青い。


「そうねえ、色彩も含めて、味だと思うかな、私は」

「それどちらかと言うと否定してるような」


 駄菓子屋の前に設備された赤い机と椅子に座って、僕達はかき氷を食べている。

 赤く塗装された木製の椅子は色褪せて、プラスチックと鉄でできた机は目玉焼きを焼くのにはちょうどいい。


「あ、どうしよう、なんか酷い色になっちゃった」

「シロップ全部かけたらそうなるに決まってるだろ」


 茶色くなってしまったかき氷を睨む礼鳴を尻目に、僕はかき氷を口に運ぶ。

 僕はブルーハワイをかけているが、よく考えるとブルーハワイとは何味なのか。


 赤はイチゴ味、緑はメロン味、黄色はレモン味、と味らしい名付けがされているのにも関わらず。ブルーハワイだけ明らかにおかしい。


「あ、意外と美味しい!」


 まあ、同じ味なんだし混ぜても味は変わらないだろうな。


「まあ、とにかく答えてください、悩みはなんですか、これ聞くの12回目ですよ」


 最初は道端で聞いて、答えも聞けずにあれよあれよといつの間にやら駄菓子屋でかき氷を食べている始末。

 なにか答えたくない理由でもあるのだろうか……いや、悩みなんて見ず知らずの人にペラペラ喋るようなものでもないか。


「うーん、悩み……特にないかなー」

「ないことはないでしょう」


 どんな人にだって悩みはあるものだ、幸せなやつは幸せすぎることに悩むし、金持ちは金の使い方に悩む。


 礼鳴はよくおやつを何にしようかと悩むし、僕はスマホの指紋認証が全然働いてくれないことによく悩む。


「そう言われてもね、毎日楽しいし友人も沢山いるしお金はあるし、天使はね、気を使わなくても容姿端麗なのよ、いいでしょう?」


 折さんは絹のような美しい前髪をくるくると弄り、なにか満足したらしい彼女は得意げな顔で僕を見つめてきた。


「別に羨ましくないですけど」

「なら足で机揺らすのやめてもらっていいかな」


 勘違いしないでもらいたいのだが、別に何か意図があって揺らした訳じゃない。

 ただイライラすると足をカタカタ言わせたくなる性分なんだ。ただしなぜイライラしているかというのは気にしないものとする。


「これくださーい」

「あいよぉ、10円ねぇ」


 かき氷をそうそうに食べ終わった礼鳴は駄菓子屋で何かを買っていた、店番をしているのは大きな招き猫だ。曰く付喪神らしく、容疑者リストには入っていない。


「つまり、今のこの状況には困ってないと」

「そうだね、むしろ楽しませてもらってる、それに、山上に可愛い子が居るのよ」


 それなら先程会ってきた、なんて言って変に絡まれるのはゴメンだ。

 もちろん悩みがないなんて嘘を言っているのかもしれないが、まだ容疑者はほかにもいる。詰めるのは一通り調べたあとでもいいだろう。


「まあ、悩みが出来たら言うよ」

「いえ、結構」


 僕に新しく出来た悩みを言われても困る。


「あぁっ!見て!なんかレアそうなのでた!!見て見て!きらきらシール!!」

「あと2人か、これは事件解決も早いか」


 日が赤く燃えだした、今日中に全員に会っておきたい。

 あとの2人がどこにいるかは、礼鳴の推理に任せるしかないのが不安だ。

 今のところ、予想は全て当っているが……。


「ねーねー!見てよー」

「やめろっ顔に貼ろうとするんじゃないっ!」

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