始まりは魔王様のきまぐれから その2
僕が、曖昧な返事をしたにも関わらず、レイアス様は満更でも無い様子だ。
魔王様の機嫌を損ねたら、何をされるか分かったもんじゃないので、とりあえずホッとする。
だが、問題はこれからだ。
恋文を飛ばすのは、もはや決定事項だ。
それは、仕方がない。
なんか既に、レイアス様は部屋の窓を開けて指を鳴らし、魔鳩を呼んでいるからだ。
ならば、どこに届いたのかを確認して、相手が悪ければ僕自身が事情を説明し、手紙を回収するしかない。
僕の能力は複数あるが、そのうちの1つ、《監視魔術》を使う。
この能力は、自分の左目と相手の体を見えない魔術回路で瞬時に繋ぎ、自分がどこにいても対象の動きを監視出来る能力だ。
レイアス様が呼んだ魔鳩に、その《監視魔術》を無詠唱で発動させ、左目で鳩の動きを観察する。
魔鳩は、魔王城を飛び出していく。
左目で、その動きを確認しながら僕は何食わぬ顔でいつも通りレイアス様と会話を楽しんだり、昼食の後お菓子好きの魔王様の為にお茶の準備をする。
「リヴィアンよ、お前もたまには共に茶を楽しもうではないか。今日は気分が良い。我の隣で茶を飲むのを許してやろう」
「僕には勿体なきお言葉です。ですが、レイアス様のご好意に甘えさせて頂きます」
正直、魔鳩の行方が気になりすぎて執事業に専念出来そうに無かった。
丁度良い。
お茶を飲みながら、ゆっくり魔鳩の動きを観察する事にしよう。
──魔鳩は、魔王城を出て東の村に向かっている。
「お前と、こうしてゆっくり茶を飲むのも久しいな。何故かお前はいつも忙しい」
「魔王城の広さに対して、執事が僕1人だけですからね。昔は人も沢山いましたが、あの勇者のせいで、執事も兵士もその他臣下も命を落としましたから。それに、レイアス様のお世話は僕にしか出来ないと思っておりますし」
──魔鳩は、東の村を超えて海を渡り、突如上空に発生した転移魔術の穴に飛び込む。
「執事がリヴィアンだけというのは、早急に解決せねばならないと思っておる。お前には、いつも苦労をかけるな」
「そんな……レイアス様に、そのような事を思って頂けるだけで、光栄の極み。執事業がいかに大変であろうと、そのお言葉だけでやる気がみなぎるというものです!」
──魔鳩は、転移魔術の穴から飛び出して人間界に辿り着き、そしてついに街を歩いている勇者アイリスの手元に手紙を置いて飛び去った!
「僕は、執事として魔王様を生涯お守り────って、そうはなんねぇだろぉぉおおおおっ!?」
僕は、盛大に紅茶を噴き出した。
今のセリフは、監視していた魔鳩について言ったのだが、僕が監視魔術を使っているとは知らないレイアス様は、少しショックを受けてしまわれた。
「リヴィアンよ……我を生涯守るのは、そんなに嫌なのか」
「あ、いえ。そういうわけでは無く! 魔王様の事は、一生かけてお守り致します! ただ、ちょっと野暮用を思い出しまして……」
「そ、そうか。野暮用なら、仕方あるまい。さっさと終わらせて、早く帰って来い。我は、まだお前と茶を飲みたい気分なのだ」
「は、はい!」
僕は一礼し、事態を解決すべく部屋を出て走り出した。
勇者アイリスの元に、あのよく分からない魔王様の手紙が届いただって?
あの魔鳩め、帰ってきたら焼き鳥にしてやる!!
魔界存続の為、人間達を滅ぼして僕達が征服する。
その野望の為に、決して勇者と魔王様が結ばれる事はあってはならないのだ。
恋に発展しそうなら、全力で止めてみせる。
全ては、魔界と魔王様のために。
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