第24話 時には殺意を、時には感謝を、そう思ったら大間違いだ

「鳥は鳥かごに虫は虫かごに、猛獣だったら檻だろう」


 まずは目の前のこいつを何とかする。

 腰袋に手を突っ込む。


『スキル【ホームセンター】を発動。通路番号7から電動工具コーナーを選択。検出開始――棚番3の棚段2段目から17ミリソケット特定。――取寄せ可能』


      yes?  no?


「yes」


『承諾しました。SPを消費します』


 取り出したのはボルトを閉めるための電動インパクト用ソケットだ。17ミリと刻印されている。

 すばやくインパクトの先に取り付けたドリルを取り外しソケットへと先を付け替える。


「スピードと根比べ勝負だ」


 ぼくは再び腰袋に手を突っ込む。


『スキル【ホームセンター】を発動。外売り場からエクステリアコーナーを選択。検出開始――棚番1の棚段1段目から単管パイプ四メートル特定。――取寄せ可能』


      yes?  no?


 取り出すのは単管パイプとそれを接続するための金具だ。


「yes」


 これを何本も何個も必要になってくる。果たしてそれだけスキルを使いSPが持つのか。


『承諾しました。SPを消費します』


「4メートルの単管パイプでいけるか?」


 ギリフォンが突撃してくる。ハサミがぐわりと開き、ぼくの胴体を真っ二つにしようと閉じる。冷や汗が死の恐怖とともにぶわりと噴き出してくる。かろうじてしゃがみ込みギリフォンの後ろに回り込む。


「こっちだ!」


 ギリフォンは咆哮を上げその挑発のようなぼくの行動に怒りを覚えるのか荒ぶり突進してくる。


 集中すれば攻撃をかわせないことはない。

 ただその圧は10トン車の前に身を投げ出したような圧迫感だった。

 それだけで身がすくむ。

 殺意は完全にぼくに向けられている。だけどこれでいい。まずはヤンカさんから遠ざける。

 怒りに我を忘れさせるんだ。

 

 ぼくはその間にも腰袋に手を突っ込み4メートルの単管パイプを引き出していく。

 地面に何本もの単管パイプを差していく。


「まだまだ足りない――」


 ギリフォンが頭を横薙ぎに払う。なんとか腕で受け止めるも圧倒的な力の差がまるでぼくを紙屑のように吹き飛ばす。


 大木の幹に背を打ち血反吐を吐く。

 骨が軋む。衝撃が体に悲鳴を上げさせる。


「あぐっ――」


 地面に落下し目前のギリフォンに視界が霞む目を向ける。

 その圧倒的な実力差にやはりダメだったかと心中、弱音を吐きそうになる。

 

 ここでぼくが倒れたら?

 あいつはヤンカさんも一緒に亡き者にするだろう。


「それだけはさせない」


 立ち上がり腰袋に手を突っ込む。


『スキル【ホームセンター】を発動。外売り場からエクステリアコーナーを選択。検出開始――棚番1の棚段1段目から単管パイプ四メートル特定。――取寄せ可能』


      yes?  no?


「yes」


『承諾しました。SPを消費します』


 今何本だ? 必要なのは4m24本に3m24本、計48本。そしてそれを組むための金具。頭のなかに描かれた設計図から必要本数、必要な寸法を霞む視界にギリフォンを捉えながら算出していく。


 あの体のでかさだったらこの寸法の単管パイプがこれだけの本数があればいけるはずだ。

 ホームセンター勤務のときに客に突然「こんなも作りたいんだけど、何が必要?」と急な無茶振りに対応するために鍛えられたこのスキル。

 そもそもこんなもと言われても客の想像上に描かれてるいる物を、別の人間であるこちらが想像できるわけもなく「(このジジイ何言ってんだ?)」と心中うんざりしながらも笑顔で対応しなければならないサービス業の業。

 薄給で無理難題を吹っ掛けているにも関わらず、すぐに対応出来ないと「そんなこともわからないのか?」と馬鹿にされまくる。

 その時のお客様ほど悪魔に見えて仕方がなく殺意を覚えた。


 しかし、その業から生まれた特殊スキルを磨かせてくれた悪魔のような客たちに今は少しだけ感謝した。


「あの時受けた屈辱をぜーんぶお前にぶつけてやるからなっ!!」


 ホームセンターで出会ったすべてお客様達の顔を浮かべると不思議に力が湧いてくる。


「このやろう人を馬鹿にしたような顔をしやがって怒鳴れば言うこと聞くと思ってやがる。ぼくはお前らの奴隷じゃないんだぞ? 

店員にも人権はあるんだよ!! 言いたいことはまだ山ほどあるけど今はこの鳥野郎をぶちのめすが先だ!」


 脳がフル回転していく。


 想像上の物を実現化させる設計図を頭に即座に描くスキル。

 鍛えられたその能力で必要寸法、必要本数そして必要な金具の種類、数を算出させていく。

 この能力は伊達じゃないことを見せてやる!


 ぼくはギリフォンの攻撃を致命傷を避けながら何度もスキルを発動させパイプを取りだしていく。


「……46、……47、……48」


 視線を周囲に走らせる。必要本数はクリアだ。

 あとは固定させるための金具だ。


 ギリフォンが止めを刺そうと突進してくる。怪物は荒ぶり容赦なく周囲の木々を切り裂き突進してくる。


 体の各部位に避けろと命令する。

 体はかろうじて動き無様な格好であるがなんとか横に飛び窮地を脱する。


 ギリフォンの攻撃を避けながらなんとかスキルで金具も出し終える。


 インパクトのトリガーに指を掛ける。朦朧とする意識の中、指を引く。

 身体中からモーター駆動させる為の力を発現し注ぎ込む。

 モーターの音が稲妻のように激しく迸りともに激しく回転する。


「さあ、DIYの時間だ」


 ぼくは散乱していたパイプに金具を取り付けインパクトに取り付けたソケットにボルトを嵌め込み回転させ絞めた。


 ギリフォンが何事かと咆哮し再び突進してくる。次はギリフォンの攻撃を避けながらの組み立て作業だ。どれだけ早く組み立てられるかスピードが重要だ。手間取ればそれだけギリフォンの攻撃を避け続けなければならない。

 

 それに組み立てている物を壊されないようにするのも注意を払う。


「こっちだ! 鳥だかなんだかわかんない野郎!」


 手招きするように攻撃の進路を誘導させる。その挑発のような行動にギリフォンは咆哮をあげ飛びかかってくる。


 顎のハサミ攻撃をかわし、前足に踏み潰される前に背後に回り込む。

 急旋回してぼくを捉えようとするギリフォンの視界から即座に逆に回り込む。

 ぼくの姿を見失った一瞬の隙をつき、パイプとパイプを繋ぐ作業を繰り返す。


 心身ともにボロボロになりながらも最後の力を振り絞りギリフォンの攻撃を紙一重で避けなかに続け取り寄せ放置していた金具を拾い上げパイプを繋いでいく。


 ギリフォンの顎が頬先を腕を足を掠め鮮血を走らせる。

 それでもぼくはパイプを組み上げていく手を止めはしない。


 まずは4メートルを繋ぐ。次は縦パイプだ。直交ジョイントは、あった。繋ぐ繋いで組み上げる。次は? 次はここに格子を作るために3メートル管を縦に継ぐ。できた。次は?

 血まみれになりながら意識を朦朧とさせながらそれでも致命傷は避け続け組んでいく手を止めることはない。


 

 森にインパクトがボルトを締め込むガチガチガチガチという音が響き渡っていく。

 どれだけ時間が経っただろうか。どれだけギリフォンの攻撃を食らっただろう。

 それでもぼくは手を止めなかった。動きを止めなかった。ぼくはパイプとパイプを掴む。

 さあここまで来たらラストだ。


「どこを見ている! こっちだ鳥野郎!」


 ギリフォンの注意をこちらに引く。


 瞬間、膝が力なく折れその場に片膝ついてしまった。スキルの使い過ぎか朦朧としていた意識も消えかけていく。


 タイムリミット。あとほんの少し。あとボルトを1つ締めるだけ。

 あとは固定金具で固定するだけだ。

 ――どこだ? どこにある?

 ぼくは金具を探した。だが取りだしたはずの金具が見当たらなかった。ギリフォンとの闘いでどこかに飛んで行ってしまったか?

 もう一つスキルで取りだすしかない?

 

 腰袋に手を突っ込もうするが、ギリフォンが視界に迫ってきていた。


「――くそったれ」


 やられる。


「――ダイク!」


 はっと意識が覚醒する。振り向けばヤンカさんがこちらに『何か』を投げつけてくるのが見えた。ヒュンっと飛んでくるそれをぼくはキャッチする。


「――いっ」


 瞬間、手のひらに激痛が走る。

 あまりの痛さに地面に取り落としたそれを見れば、欲していた金具だった。


 そりゃこんな金属をあんな直球で飛んできたのを受け止めれば痛いよとちょっと涙ぐみ拾いあげる。

 それでもその痛撃のおかげか朦朧としていた意識がおかげですっかり覚めた。これでパイプを繋げれば、完成だ。


 ヤンカさんの足の血は止まっている。彼女の足を治す時間は稼げていたことに胸を撫で下ろし、彼女に視線だけでありがとうを告げた。

 そしてぼくはすばやくパイプとパイプに金具を通し、インパクトでボルトを締めあげる。

 今日一の締め付ける音が森に響いた。


「――よしっ!」


 出来上がったのは単管パイプで組まれた四メートル級の檻だった。これだけでかければギリフォンをまるまる閉じ込めることができる。


 そして都合よくギリフォンがこちらに突進を仕掛けてきている。怒り狂いもはやぼくを仕留めるという本能しかその姿に伺えない。それほどに荒ぶっていた。


「最後の仕上げだ。スキル――【融合】」


 ぼくはもう1つ腰袋から取り寄せていた異世界アイテムを単管パイプで組まれた檻に付着させスキルを発動させた。


 檻が青白く発光する。


「さあ、来いっ。ギリフォン!」



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