第20話 見えない敵
ぼくらはなんとか、谷を渡り再び森に足を踏入れた。
空気の重さが明らかに変わったようだった。地図を広げ現在地を確認する。
「橋があったここが現在地だ」
地図の印から、アダマントンが生息してる可能性がある目的地である祠までのルートを確認する。
それは一直線ではなく妙に遠回りのルートであった。
直線上には丘がありそこに✕印がつけられている。
「ここから真っ直ぐ行ったほうが早いのだ。よし! ダイク、ヤンカに続けなのだ!」
「ちょ、ちょっと待ってください。ヤンカさんルートはこの丘のようになってる箇所を遠回りする形になってます。ここ、丘に✕印がついてるってことは危険を告げてるんじゃないですか?」
「そんなことないのだ。きっと景色がよくてマークしてるだけなのだ。行くぞダイクー!」
ヤンカさんはずんずん森を進みはじめる。
本当に大丈夫か? と不安に駆られるが腐ってもヤンカさんは冒険者なのだ。
そう言い聞かせ、しぶしぶついていった。
○○○
浅層とは違い植物が明らかに大きくなっていた。浅層では小さかった花も花びら一枚一枚がぼくの顔ほどの大きさがあった。大きなものになると、まるで水車の羽のようなでかさだ。
「なんだかぼくら小人になったようですね」
「ヤンカもここまで来たこと初めてだから新鮮なのだー」
どこもかしこもウィッチプレートほどの大きさの植物が頭上を覆っている。
木々の隙間から申し訳程度の陽光が細い糸となり森に光のグラデーションとなり降り注いでいる。
木の幹や地面を覆った苔に光が当たると、その部分がエメラルドグリーンの輝きを持つものがあった。
「うわっ!すごいきれいですねー」
「とてもきれいなのだー。そうだ!」
ヤンカさんが光が当たっている苔に走っていく。
「どうしたんですかー?」
「これ、持って帰るのだー。きっといいお金になるのだ」
ヤンカさんは短刀を取りだし苔を削り取り腰に下げた袋から小箱を取りだした。
なるほど、ああいう苔なんかも町に出れば買い取ってくれるのかとぼくは感心した。
と、何気なく見ていたらヤンカさんの体が宙にふわっと浮き、びゅんっと天に昇った。
「――にゃっ」
「……あ、あれ?」
あっという間にぼくの視界から姿を消したヤンカさん。追うように上を見上げ目を白黒させた。
なんだ? 猫耳美少女は空を飛べたのか?
そんな彼女の新しい一面を見せつけられぼくは混乱した。
だって何が何だか分からないから。
すると――。
「にゃーーーーーーー! にゃんだ! これはなんなのだー!」
ヤンカさんの叫ぶ声がちょうど枝分かれしている部分から聞こえてくる。
「いや、なんか言ってる。な……」
木の枝のとこにヤンカさんがバタバタと手足をばたつかせている。
「ダイクー! 助けてなのだー!」
「ああ、あれは……ヤンカさんからのSOSだ」
理解が追い付かずどこかぼんやりと見ていた。
「たーすーけーてーなのだー! わあっ、何かがヤンカの大事なとこ触っているのだぁ!」
え?ーーーーーーーーーどこを、触っている? 何を触っている? ヤンカさんの一体何を触っているんだ!?
ぼくの脳がようやく霧を吹き飛ばすように覚醒した。
「ヤンカさん! 一体どこを触られているんですかーーーーー!!」
ぼくの叫びが森に木霊した。
「いいから助けてなのだー!!」
しょうがないなーと、ぼくはスキルで梯子を取り出し、木に立て掛け登っていく。
「今行きますよー」
しかしヤンカさんは何に引っ張られて上に?
何か、ヤンカさんの体に植物か何かの蔦が絡まっているのは分かるのだけど……。
そういや何かに触られているって叫んでたけど……。
というか、あの人、薄々思ってはいたけど冒険者向いてないよなやっぱ。
と疑問を浮かべているとヤンカさんの周りがなんだか妙に視界がぶれていた。
「なんだ? なんか目が急に霞んだような……」
じっと見ていると何かが動いたように見えた。
「……?」
「うわっ、うわっ、何するのだー!」
ヤンカさんが宙に浮き暴れている。
そして、ひゅっと姿が消えた。
「――え? 消えた?」
目の前からヤンカさんの姿が完全に消えてしまった。
と思ったら、姿を消した場所からヤンカさんの顔だけが、がぼりっと出てきた。
「宙に……、顔だけ浮いてる。ヤ、ヤンカさんの、生首が――っ」
あまりの出来事にぼくは梯子から手を放ししてしまいそのまま地面に落下した。尻もちを思いっきり突きズンっと着地の衝撃に身もだえる。
「――っつうう」
そしてヤンカさんが生首のまま飛翔していった。
「ダイクーっ、た、助けてー!」
しばらくヤンカさんの生首が飛翔していくのを呆然と見つめていて助けを求めるヤンカさんの叫びにはっと我を取り戻した。
「ヤンカさーん! どこ行くんですかー!」
「知らないの――」
あ、消えた。
「と、とにかく追いかけなきゃっ」
○○○
森の中をヤンカさんの生首を追いかけ疾走しながら、気づいてきた。
いや薄々気づいてはいたけど、はっきりと確信したのはその時だった。木の枝を飛び移る速度が速すぎるためか、ヤンカさんの生首より後ろの姿が周囲の風景が一瞬だけぶれていた。
それを認知することで初めてヤンカさんを捉えているモノの姿が見えてきた。
長い尻尾に四足歩行の足ががっしりと木に絡みついている。
それは巨大な――。
「カメレオン……?」
そうヤンカさんは巨大なカメレオンのモンスターに体をすっぽりと食われ、顔だけ必死にだして助けを求めていたのだった。
体は周囲に溶け込むように逐一色や模様が変化し、すぐに見えなくなる。
あれだけの巨体があっという間に周囲に溶け込むのだ。それは脅威であった。
あれだけ巨体のカメレオンがすぐ近くにいたとしても食べられるまで気づけないのだから。
まあ、ヤンカさんがあまりにも無防備であるという可能性もあるけれど。
「た、助け、助けて~、ダイク~」
ヤンカさんが半べそになり顔だけこちらに向けて助けを求めてくる。
「ど、どうする……」
助けてあげたいのは山々だけど、あれだけ木の上を自由に行き来できるモンスター相手では飛び道具がなければどうしようもない。
「――飛び道具、か」
ぼくの脳裏にある工具が浮かぶ。
腰袋に手を突っ込む。
『スキル【ホームセンター】を発動。通路番号6から工具コーナーを選択。検出開始――棚番5の棚段1段目からマイナスドライバーを特定。――取寄せ可能』
yes? no?
「yes」
『承諾しました。SPを消費します』
腰袋からマイナスドライバーを取りだす。
「――よしっ」
レベルの上がった今ならかなりのスピードで投げることができるはずだ。相当なダメージを与えることができるはず。
飛び道具として申し分ないはず。
ただ、これだけでは心もとない。
再び腰袋に手を突っ込む。
「今度は――『スキル【ホームセンター】を発動。通路番号8から異世界コーナーを選択。検出開始――棚番3の棚段2段目から『毒針』を特定。――取寄せ可能』
yes? no?
「yes」
『承諾しました。SPを消費します』
腰袋から黒曜蜂を倒したときに手に入れた『毒針』を取りだす。
「そしてスキル【融合】!」
ぼくは毒針をマイナスドライバーに【融合】させる。
マイナスドライバーの金属部が黒曜色に変化した。
「ヤンカさん今助けます!」
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