第10話 引くぞ水!その壱
インパクトドライバーの口を回転させ、木工用ドリルを差し込む。トリガーに指を当て、対象物にドリルを押し付け狙いを定め――引く。
「くらえー!」
トリガーを引いた指先からしびれが走り、動力がドリルに伝わるのを感じる。ドリルが高速回転し、対象を無残に抉り穿つ。
「ダイク……。それを言わにゃいとその道具は使えにゃいのか?」
「あ、いやそういわけではないのだけど、なんかクセになっちゃってて」
ぼくは冷静に突っ込んでくるヤンカさんの言葉に頬を真っ赤させる。視線を葉っぱの縁に向けるとそこに気持ちよさそうにうつ伏せで寝そべり白い尻尾を揺らしている白猫がいた。
ヤンカさんであった。彼女は回復魔法を使ったことで魔力を消費したので獣化したのだそうだ。なんでもこの体のほうがエネルギーの消費が少なくて魔力を回復するのに効率がいいとか。
うーん。獣化したことで省エネとは逆じゃないか? とも思うのだが言われてみれば確かに人間の体って無駄が多いんだろうな。
実は川で腹痛を起こしたとき気づくと治っていたのもヤンカさんが治してくれたのだそうだ。その時、魔法を使ったので猫の姿を取っていたと。
ぼくはヤンカさんに何度も頭を下げ感謝の意を示したことは言うまでもない。
「ダイクはヤンカがいないとダメにゃのだなー。しょうがない面倒みてあげるのだ。これからはヤンカのことはおにゃーちゃんと呼ぶように」
白猫は起用に腕を組み鼻高々とよく分からないこと言っていた。というか猫の状態で喋られるとこうも生意気に思えるものかと意外な発見に驚いたものだ。
とにもかくにもぼくはドリルで葉っぱに穴をあけていた。
意外に葉っぱは分厚い。5センチくらいは厚さがあるんじゃないか。
ドリルが葉っぱを削る音が消え手ごたえがなくなる。
「よし、貫通したぞ」
ドリルを葉っぱから引き抜くと穴から水が流れ落ちてくる。
「おお~。ドバドバ出てきたのだー」
「ここにあらかじめ十字に切ったホースを突っ込みます」
開いた穴にホースを差し込む。使っているのは園芸用のホースである。本当はポリエチレンのパイプがいいみたいだけど残念ながらぼくが取寄せ可能で使えそうなのは園芸用品の散水ホースしかなかったというわけである。
ヤンカさんの短刀で十字に裂いた先を葉っぱ内で開き、葉っぱの内側にホースを四か所ビス止めするためにインパクトドライバーの先をドライバービットに替え、手持ちのビスで固定していく。
驚くことにこのインパクトドライバーなぜか水の中でも使えた。
スライムに取り込まれたときこれは壊れたかも。そもそも溶けてしまったかもと覚悟したが、なぜかまったくの無傷であったのだ。
ただ外側が無傷でも中身に水なんかが入り込んでいると壊れてしまう要因になるので乾くまで放置しておこうと思ったのだが、ヤンカさんが親切心で無常にもスイッチを押して動くかどうか確認したのだ。
やめれー! と慌てて叫んだけど時すでに遅し猫耳美少女は何度もスイッチを押し続けた。
ショートしてしまうと覚悟したが何事もなく動き続けるのでぼくは拍子抜けしインパクトドライバーを受け取った。
もしかしたらこのインパクトドライバーも異世界仕様になったのかもしれない。攻撃力50以上だし。そう思ったのは何故かいくら使っても充電が減る気配がしないことだ。
何故だろう? と不思議に思ったがぼくはステータス画面のある部分を見てまさかと気づいた。それはMPの数字がインパクトドライバーを使うと減っていることに気づいたのだ。使う瞬間に指に電気が流れるようなしびれがあることには気づいていたけど、きっとあの感覚が魔力を使っている証なのだろう。
いつか魔法が使えるようになるのかと思っていたがなんのことはないきっと電動工具の動力に電気の代わりにMPが使用されるのだ。
くそ、魔法憧れていたのに。
と、やけくそ気味で水の中で使ってみたら使えたのだ。
ぼくはビスをしっかりとホースを葉っぱに止め終えると、次に一枚の網を取り出しこれをまたホースの上に被せ、再びビス止めをしていく。
「よしこれでゴミがホースの中に入って詰まることがないぞ」
使ったのはホームセンターで売られている切り売りの網だ。一メートル単位での切り売りなので欲しい分だけカットして使うことができる。ちょうどいい大きさに切るためにヤンカさんの短刀を貸してもらうことが一番大変だったかもしれない。
今度ハサミも出しておかねば。
次に通したホースと葉っぱの隙間に外側からシール材を練り込んでいく。水圧で隙間の穴が広がらない為だ。
使ったのはチューブに入ったシール材である。
「これは何にゃのだ? 白くてねちゃねちゃしているのだ」
ヤンカさんは起用に葉っぱの縁から前足を伸ばし、ちょいちょいと触っては確認している。ガスバーナーの時もそうだけどかなり好奇心旺盛なようだ。
「これはシール材っていってお風呂と壁の隙間を塞ぐときによく使われるものだよ。って言っても異世界でそんなことしないか。とにかくこれは時間が経過すると硬化して弾力性を持つから熱膨張に――つまり隙間を塞ぐのに便利なんだ」
「にゃるほどにゃのだ。しかしダイクのその腰袋ってやつは何でもだせるんだなー」
「なんでもってわけじゃないけどね」
ヤンカさんはその獣化した体でぴょんっと地面に着地すると肉球で興味津々にホースを踏み踏みしている。
「こんなの初めて見るのだー。中は空洞にゃのかー」
「そりゃホースだからね」
もう一つ気づいたことがあった。SPが何故か増えていたのだ。はじめは確か8だったはずだが今では20を超えていた。
このSPってやつはどうもスキルを使えば使うほど最大値を更新していくみたいだ。熟練度に応じて使える頻度が増えるというやつだろうか。
そのうち際限なく使えるようになるかもしれない。そしたら作業の進み具合もぐっと早くなる。
ぼくはそんな楽観的希望に満ち溢れ立ち上がる。
「よしじゃあ次は、これを小屋まで引いていって小屋にろ過装置を設けよう!」
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