第3話 スキル発動!

 ぼくは気を落ち着かせようと壊れた扉の修繕をやっていた。


「落ち着くんだ。ぼくは一応女神様に魔王討伐を任された勇者って立ち位置だ。勇者ってのは一般人と違って基本どえらい力があるもんだ」


 何故外れたのかを観察する。見れば蝶番がハンマーで叩かれたように歪んでおり釘と一緒に抜けている。


「そういえば女神様はぼくにスキルというものを与えてくれたと言っていた。

というよりも異世界に送り込まれる人間は総じてスキルというものを獲得するらしい。もしかしたらそのスキルが使えれば少しは状況を打開する術になるかもしれない」


 それにしてもぶっとい釘だ。この世界の釘はみんなこんな感じなんだろうか。


「女神様が言うには――。


『念じなさい。されば道は開かれん』


なんて言ってたけど。念じるって何をどう念じればいいんだよ。スキルを使用するにはステータス画面を開いて選択すれば使用できるらしいけど・・・いやそのステータス画面がわからないんだよ。……蝶番はこれはもう使えないな。腰袋に蝶番なんか入れてなかったかなー」


 腰袋に手を突っ込み漁る。頭に蝶番を思い浮かべる。瞬間――視界にゲームアイコンのような表示が浮かび、文字の羅列が宙に展開された。


 佐藤たける 


〖職業〗ホームセンター万年平社員


 Lv.1 HP18 MP8 SP8


 攻撃力7 物理防御5 魔法防御3 素早さ6


 武器装備,なし 防具装備,布の服


 スキル【ホームセンター】【抽出】【融合】


『ショートカット機能により、スキル【ホームセンター】を発動。通路番号1から金物コーナーを選択。検出開始――棚番2の棚段4段目から蝶番を特定。蝶番――取寄せ可能』


      yes?  no?


「おお! なんだこれ? 変な声が聞こえてくる。しかも視界にぼくが欲しかった蝶番が浮かんでいる。yes? no? って取寄せするかどうかってこと? 取寄せしたらどうなるの?」


 他の表示部分も見てみる。攻撃力だとか防御力だとかLvだとか、浮かんでいるというよりは表示されているといった感覚が近い。

 いやしかしこれめちゃくちゃ弱くない?


「もしかして、これが女神様が言ってたステータス画面てやつか? いやしかしスキル【ホームセンター】ってなんだよ。ぼくがホームセンター勤務だったからって安直すぎやしないか? いや、それより職業万年平社員ってなんだよ! ステータス画面までぼくをディスってくるのか? あれか? 異世界でもこれが現実だと突き付けてくるやつか!? くっ、まあ、いい。今はそんなことを論じている場合じゃない……yesにしたらどうなるんだろう」


 素朴な疑問であった。でもすでに積んでいるようなもんなので。この際藁にも縋る思いで口にした。


「じゃあyesで」


『承諾しました』『スキルポイントを消費します』


ん? スキルポイント? ん? なんだ体の力が――、


「なんだ体から何かが抜かれていく感覚が――……収まった。なんだったんだ?」


 指先にこつんと角張った金属が当たり引き抜いてみる。


「ん? おお!蝶番だ。すごいなんだこれ」


 これがスキルというやつか。これは便利だ。【ホームセンター】ってスキルだからホームセンターにあるものを取り出されるってことだろうか? 

 あの体から力抜かれていく感覚と交換に。スキルポイントって言ってたな。よくみればSPと書かれた横の数字が4になっているのに気づく。


「なるほど。このSPってやつを消費してスキルを使うのか。さっきは確か8だったもんな今は4だ。待てよ……ホームセンターっていうぐらいだから水もあるんじゃないか? そうだ、そうだよ。よし試してみるぞ」


 さっきは腰袋に手をいれて蝶番を思い浮かべたらあの表示が出てきた。


「今度は……水を思い浮かべて」


『ショートカット機能によりスキル【ホームセンター】発動。水――』


 来た来た来たっ!


『該当無しのため取寄せ不可。アディオス』


「……アディオスって何だよ」


 なんで水はダメなんだ? そういえば蝶番のときは通路番号やら金物コーナーからの棚番とかいっていたな。


「それってぼくの担当していた一階のDIYコーナーの配置図だ。確かに金物のコーナーは通路番号1だった。え? そういうことか?」


 ぼくは試しに蝶番とは別のもの、ぼくの担当していた物を思い浮かべた。


『スキル【ホームセンター】発動。通路番号1から金物コーナーを選択。検出開始――棚番5の棚段3段目から木ビスを特定。木ビス――取寄せ可能』』


       yes? no?


 やっぱりそうだ。

 ぼくはyesを選択した。


『承諾しました』『スキルポイントを消費』


 瞬間――意識が遠き体の力が抜けていく。

 あっ――、これやばい。さっきよりやばいぞ。スキルの連続使用が原因か? 

 腰袋に入れた指先にこつんと感触が。

 取り出す。そこには思い浮かべていたプラスチックケースに入った木ビスがあった。


 視界に表示されているSPの数字が0になっている。今はなんとか意識を保っているが、もしこれもう一度使ったらどうなるんだ? もしかして気絶だろうか?

 というか2回しかスキル使っていないぞ。くうー、とりあえず2回か。今の段階では2回しか使えないということだろう。さすがに3回目を試す勇気がない。


「だけどこれではっきりした。そういや女神様もスキルというものはその人物の中にある固有の概念をスキル化するっていっていた。つまり、担当していたところは物の配置なんか覚えてないから取り出せないってことなんだろうな」


 つまり、水は手に入らないということだ。


「ぐうぅぅぅっ。ぬか喜び、ぬか喜びというやつかっ」


 しかし、一応スキルというものが使えると分かっただけでも御の字であることは確かだ。あっちの世界で担当していた部門であれば、ぼくはいつでも必要なものは取り出せるということだからな。

 体のエネルギーを消失していく感覚、SPと交換に。

 

「よし、この釘はもう使えないからビスで取り付け直しだ」

 

 扉についている蝶番を外し、持っていた蝶番を取り付けなおす。インパクトドライバーでビスをねじ込んでいく。


「よしよしいい感じだ。あとはこれを改めて入口の柱に取り付け直せば」


 今度は柱に蝶番をあて、ビスをねじ込んでいく。

 とりあえずの出来にぼくは「うんうん、いいね」と満足気に頷く。


 とりあえず【ホームセンター】というスキルが使えることは分かった。使いようによっては便利なスキルだ。真っ暗闇から一筋の光が差し込んだような気分だ。

 もしかしたらなんとかなるかもだ。


「よし扉も直したし、次は水をなんとかするぞ」


 そういやSPってどうすれば回復するんだ?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る