墓参り

時は進み、第二次世界大戦に負けた日本は、

西洋の物を取り入れ、近代化が、急速に進んでいった。


時は、平成という年号へと変わり、物静かだった、昔の風景とは、まるで違う世界へと形を変えていった。


空には雲1つ無く、早春の陽射しに草木が映え、桜が春の風に乱れ花弁が美しく舞う。日野を着物姿の女がはんなりと歩いていた。


目まぐるしく変わった世の中について行くのは、案外と容易い事だった。突然、別の時代に飛ばされた訳でも無い。平成の世は、機械化が進み意外と住みやすい事は確かな事だった。


老いる事もなく、あの時のままで、姿カタチは変わらない。いわば、不老不死と言えば聞こえは良いが、ハッキリ言えば、化け物だ…


つい最近まで、『死にたがり』だった自分は、ようやく前を向けたのは、自分が生きている意味を考えたからだ。何をしても死ね無いのならば、もう諦めて生きるしか無い。


ずっと逃げていた。彼らから…。

しかし、生きようと決めた時、自然と彼らの所縁の地を回りたいと、初めて思ったのだ。


そして、実際に回ってみれば、その様子は様変わりして居て、少しの驚きと悲しみが入り混じる。複雑な思いのまま、所縁ゆかりの地を散策した。


全てを払拭ふっしょく出来た訳では無い。

自分の左腕に残った傷は、死にたがりの私が残した産物。


そっと着物の袖で隠し、彼女は、黒いスーツケースを引きながら東京都日野市を後にした。


そして、やって来たのは、京都。

仲間と共に過ごした地を歩く。ガラゴロと鳴るスーツケースの音だけが耳障りだが、どうしても持って行きたいものがこの中には入っている。


今の日本では、全く使えない代物や、薬。本などだ。


「ちぃ!」

「ちぃちゃんっ!」


そんな幻聴まで聞こえてくる。

彼女の名は、千夜。


それは、土方歳三につけられた名だ。しかし、彼女には、ちゃんとした名があった。


————椿。それが彼女の本当の名前。


幼い頃、記憶を失った彼女。そこを助けられ、名前を付けてもらった為、彼女には、二つの名前があった。


隊士の墓や屯所跡を巡り、最後についた場所は、沖田総司縁者の墓。ここに眠るのは、自分の大事な人。


「……ずっと来れなくてゴメンね。」


そう言いながら手を合わせる。



————さぁ、貴女が望む幕末へ。

一緒に行こう。貴女の死を求めて…



そんな声が聞こえた瞬間、彼女の視界から光は奪われ、真っ暗な闇の中へと引きずり込まれていった————

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