episode 46『月夜の風と離したくない手』

 君と電車の窓から異次元世界を覗いたと思った。なんてことはない。それは何度も訪れたことがある街の風景。だけど今夜は君がいる。仰々しい建物が並ぶ街は、馴染みのある世界とは別物のようだった。

 君がふいに、電車を降りてみようと言った。

 駅の地下には神殿があり、それを駅のホームという。地上に繋がる階段を上がれば、そこは光の溢れる世界。月夜の風が吹いている。わたしは君の手を離したくない。

 わたしは今、運命に抗おうとしている。君が力を貸してくれるなら、二人には不可能なことなんてない。

 わたし達は夜空に上がり、ビルを雲を虹色に塗り替えていく。

 突然風が吹いてきても二人は決して離れない。

 運命は、夜空に屹立するグロテスクな塔に姿を変えて現われた。君とわたしは絵筆を手に、姿を変えた運命をも塗り変えてしまおうとする。しかし、できない。やはりそこは運命。一筋縄ではいかない。

 二人は再び地面に降り立ち、宙返りをしながら塔を上っていく。

 雲の上まで突き抜けそうな塔はなかなか終わりが見えない。途中の階で見つけたものは、いつか二人で訪れた遠い日の公園の砂場だった。

 二人は砂場に飛びこんで子供に還る。

 もう一度、今度は初めから二人で生きて、運命の手の届かないところまで上っていく。そうすれば、きっと――。

 言いかけた言葉の続きは砂場に残し、二人は新たな生を生き始めた。

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