episode 45『土曜日と肋骨』
真夜中の果樹園にはマネキン人形が並んでいる。
果樹園の門は夜でも開いている。庭園には昼夜を問わず出入りができる。私は中庭に入っていった。2種類の果樹が実をつける、中庭の中央に座った。
マネキン人形も2体、果樹の下に佇んでいる。一糸纏わぬ姿の男女の人形だ。
その名は男の方が土曜日。女の方が肋骨。古い物語にちなんだ名前である。
「今年は果実が豊作ね」肋骨が土曜日に言った。
「そのようだね。放っておいても実をつけるとはいえ、収穫できる量にはバラツキがあるものね」
土曜日は階段を降りて住居に入り、分厚いノートを取ってきた。
「記録によると今年の収穫は前年比で1.2倍だ。なかなかの豊作といえるね」
二人は優しく手で果実をもいで、籠に入れていった。
私は大きなあくびをして木々の梢を見上げた。果実がたわわに実っている。私はこの果実を食べたことがあっただろうか。あったような気もするし、無かったような気もした。どちらにしても木から直接もいで食べたことはない。
横になって見上げていると、木の幹の高いところに蛇がいるのを見つけた。
私は蛇に尋ねた。
「ねぇ、君。そいつを食べたことがあるかい」
「旦那、馬鹿言っちゃいけません。たとえ口が裂けてもそんなことは致しません」
「そこの人形たちはどうだろう」
「今のところは、ありませんな。だけどそのうち、放っておいても手を伸ばすでしょうな」
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