episode 41『月面頭』
旧式のレコーダーを手に入れたので、自分の声などを録音してみるつもりだった。古い機材だと音声がどんなふうになるのか、興味があった。
だがその前に、前の持ち主が残した記録媒体が中に入っているようだったので聞いてみることにした。
再生ボタンを押すと、サーッというノイズの奥から声が聞こえてきた。
――街の中を、人間の形をした影みたいなものが歩いてて、追いかけていくと人気のない古い商店街に着いたんです……。
私は停止ボタンを押した。
これはひょっとして怪談を録音したものではないだろうか。屋外で録音したのか、声が遠いがかろうじて聞き取ることができた。だが、聞いてよいものだろうか……その、心霊的な意味で。
怪談は好きだし、本気で幽霊を信じている質でもないのだが、中古で買い求めたレコーダーに怪談が残されていたというのは、あまりにできすぎている。かなり迷ったが、私は続きを聞いてみることにした。
――ドタバタと階段を走って下りる音が響いてきて、ドアが乱暴に開けられたんです。そこに立っていた人が、首から上が黄色い、満月だったんです。……服ですか、着てましたけど、汚い作業着みたいな。白い手袋もしてたと思います……。
そこで録音は終わっていた。なんとも続きが気になる幕切れだ。その後も無音の録音を聞き続けたが、音声は入っていなかった。
前半の、人間の形をした影が異形頭になって帰って来たのだろうか。不気味でもあるが、頭が月面というのはユーモラスな気もするのだった。
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