episode 34『耳』
耳の奥に流れる川の話を聞いた。とても大きくて美しい川らしい。話を聞いて、一度行ってみたいと思うようになった。
耳の観光協会に電話をかけて聞いてみると、申し込みを済ませた後、装置の中で、両耳を塞いだまま眠ると行くことができるらしい。指で塞ぐのが一番確実だということだが、耳栓でも代用できるそうだ。
両手で耳を塞いだ状態で眠れるほど寝つきは良くないから、耳栓を使えるのは有難い。
週末にさっそく行ってきた。
入口付近はそこそこ明るく、カーブを曲がったあたりから少しずつ暗くなる。川が流れている区画に入るともう真っ暗だ。私はヘッドライトを持参して探索に挑んだ。
うわさの通り美しい川だった。
けれども、ひとつ驚いたことがあった。
――なんと先客がいた!
他人の耳に入るというのは抵抗があったので、当然ここは自分の耳の中だ。まさか、自分の耳が勝手に観光地化されていたとは知らなかった。
しかも、なんと二人の観光客が、人目がないのをいいことに情事に耽っているところだった。怒ってやろうかと思ったけれど、とても割って入れる雰囲気ではなく、私は観光する気分ではなくなってしまった。
私はその場をそっと離れ、装置が切れるまで入口の辺りで茫然としていた。
それからというもの、なんとなく耳がもぞもぞするような気がして、念入りにシャワーで流している。
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