episode 30『鏡の向こうの廊下』
雨が降った放課後、図書室で椅子に座ってうつらうつらしていた。気がつくと誰もいなくなり、雨の音だけが響いていた。
なんとなく窓の外を見ようとして、立ち上がり歩き出した時だった。
窓の横に、見慣れない大きな全身鏡を見つけた。映っている景色にどこか違和感があった。
――この鏡、私が映ってない。
鏡の向こうには長い廊下が延びている。ここは三階。壁を隔てて反対側は空中だ。
好奇心が湧いてきた。向こう側がどうなっているのか知りたい。よくある物語のように、鏡の向こうに別世界が広がっているのだろうか。だが、もし仮に鏡を通り抜けることができたとしても、三階の高さから落下することになっては困る。
そう考えて躊躇していると、鏡の奥に人が現れた。私は窓を開け、身を乗り出して外を窺った。どこにも人が隠れる場所はなかった。
鏡に映っているのは、ほんとうに鏡の中の住人なのだろうか。
鏡にしか映っていない人物は、手にした木製のバスケットから何本も白い花を取り出し、鏡の前に並べ始めた。
まるで祭壇のようではないか。
そう思って見ていると花を並べ終え、ほんとうに祈祷を始めた。
一体何に祈りを捧げているのだろう。
祭壇の向こうは図書室だというのに――。
そんなことを考え首を傾げていると、祈祷者は私に向け手を振った。
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