episode 25『アコーディオン弾き』
夜毎、眠りに就くとノックの音がする。
扉を叩いているのは、アコーディオンを抱えたルトスワフスキ氏だ。
わたしは躰を通り抜けて玄関の扉を開け、彼を迎え入れる。ルトスワフスキ氏は足音を立てずに、わたしが眠る寝台に向かう。小さなカバンから渦を巻いた木の実を三つ取り出し、わたしの躰の上に並べる。
今度の旅は四日といったところだという。三つもあれば安心である。
木の実はこちらでは手に入らないものなので、いつも助かる。
キッチンではやかんが蒸気を吹いている。わたしは音を立てないように、静かにコーヒー豆を挽く。粉を布袋に入れ、マグカップに濾す。ルトスワフスキ氏と向かい合ってテーブルに着き、コーヒーを飲む。
往来に出て駅に向かう。目的地までは列車を乗り継いで行かなければならない。スケジュールはタイトだ。ルトスワフスキ氏は用があって、途中の駅で下車してしまうという。湖でボートに乗り換えるそうだ。森に向かうわたしとは、反対方向になる。
わたしたちは夜通し列車に揺られ、湖畔の駅にたどり着いた。
ルトスワフスキ氏が駅のホームを下りていく。駅の前は湖岸である。真っ白なボートに乗り込み、櫂を手に取っているのが見える。
そして、ゆっくりと離岸していく、二人のルトスワフスキ氏をわたしは確かに見たのだった。
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