episode 24『ヒュアデス』

 ギリシャの精霊の姉妹。ヒュアデスたち。その名は雨を降らせる女を意味する。

 それなら、行く先々で雨を降らせるわたしも、ヒュアデスを気取りたい。

 同人誌のイベントに参加するため、雨の中、地下鉄の駅に向かって歩いていた。傘を傾けて、カバンを雨滴から守る。中には、一冊ずつ手作業で綴じた冊子が三〇冊程。収められているのは、中学三年の時に書いた小説と、ここ何か月かで書いた詩のような文章。

 地下鉄の駅に入るといくらか安心できる。紙袋の上から被せてあるビニールをハンカチで拭う。中身は無事なようだ。

 改札を抜け会場まで歩く。その間、雨に降られなかった。

 ヒュアデスのわたしは、少しの間なら雨を抑えておくこともできるのだ。

 題名とペンネームだけのシンプルな表紙を並べる。会場の設営を終え、写真をアップする。ヒュアデスのブースは小さい。テーブル半分だ。どん、どろん、と大きな音がして雷。激しい雨が降り出した模様。これで完成。ヒュアデスのブース。

 口の中がカラカラになって、ペットボトルのお茶をひと口飲む。

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