episode 22『繋がり』
昔、部屋の窓辺に蝶がいたことがある。カゴに入れて飼っていたのではない。
数は不定で、普段は3匹から多い時で7匹ぐらい。窓辺に置いたランプの傘に群がるようにして飛んでいた。誰かと一緒の時は存在を忘れていて、一人になると蝶を眺めて過ごした。
ところが、一人で留守番をしていた夜、別れは突然やって来た。
始まりは、何者かが階段を上り下りする音だった。鍵は確かに掛けたはずだ。
ゴッ、ゴッ、という重い足音が、二階に上がって来ては下りるのをくり返していた。
まっすぐに向かって来ないことが、わたしの決意を鈍らせ神経を磨り減らす。怖がらせるようで性質が悪い。一度泣いて、泣き止んでから、意を決して扉を開けると、足音が止まった。
そっと、階段の下を覗くと何もなかった。
部屋に戻って、そのまま朝まで、窓の外を見るともなしに眺めながらずっと起きていた。
その窓辺に蝶がいないことには気づいていなかった。いなくなったと気づいたのは、何年も経ってからだった。そういえば、窓辺に蝶がいたことがある。残されたのは微かな記憶だった。
階段を上り下りしていた何者かと、蝶。そしてわたし自身の間には、何か決定的な繋がりがあるのではないかと、わたしは思うのだ。
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