episode 21『夜の正体』

 観覧車に閉じ込められた。閉園時刻が迫っていたので、騒ぎになっている様子はない。高いところは平気なので、外を見ていた。道にひょろ長い影がいくつも蠢いていた。

 躰を揺すりながら、うねるように歩いていく。

 道行く人の影のようでもあるが、動きが普通ではない。誰かの影だとは思えない。

 眺めているうち、ひょろ長い影は近くを歩いていた人に重なり、そのまま飲み込んでしまった。そしてまた、近くの人に這い寄っていく。

 あっという間に、園内には誰もいなくなってしまった。

 観覧車が動き出し、わたしは外に出た。

 窓越しに見た奇妙な夢のような光景に眩暈を覚えながら、駅に向かって歩く。あれが夜というものの正体だろうかと考えるが、電車に揺られるうちに忘れてしまう。

 夕暮れ時に外を歩いていると、たまにあのひょろ長い影を思い出す。不思議と恐怖は湧いてこない。自分があのひょろ長い影に飲まれることを考えると、安らぎを覚えることすらある。いや、ひょっとして、わたしは既に飲まれたことがあるだろうか。

 いつかの帰り道にぼんやり考えたように、あれが夜の正体だとしたら――。わたしたちは夜毎、あの奇妙な影に飲まれているのかもしれない。そこには安らぎと、背徳的な歓喜さえあるような気がする。あれが夜というものの正体なのだとしたら。

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