第13話 炎

馬車二台はゴトゴトと夜道を走り続けた。

途中の狩猟小屋で一泊せず、このまま王都まで走り抜ける。

ガラス村が燃えているのを見れば何か起きていると考えるのが自然だ。

お忍びの王子がいれば王都まで直接帰るのが普通の行動だろう。

トム第六王子もそう考えたのか予定通り馬車が走る。

王子の顔がランプの明かりで見えたが、満足そうに上気していた。

領内のガラス村が燃えて幼い子供まで焼け死んだだろうに。


「首謀者オリベを、かくまうガラス村の住人も同罪である。」


こう王子が護衛たちに言っているのが聞こえた。

オリベは第一王子暗殺の首謀者だ。

やつを放置すれば、さらに犠牲が増えてしまう。

兄を殺された弟の復讐、仇討という意味もある。


「ガラス村はオリベが生まれた村だ。親戚も多い。

国王からはオリベを、かくまえばどうなるか、村に警告はしていた。」


自分たちの復讐の正当性を確認するように王子が話をしている。

狩猟小屋で仮眠をしているからか、誰も眠ることはしなかった。


あんなに広く激しい炎は見たことがない。

全ての家屋が真っ赤に燃えて村道が明るく照らされていた。

家畜小屋の中で動く影が見えた。

つながれた馬か牛か両方か。

赤黒いマネキン人形のことは、できるだけ考えないようにしている。


夜が明けて、馬車はようやく王都までたどり着いた。

俺たち12名は作戦終了の報告をゾフ国王にするために王宮に入った。

一通り報告を終えた後、皆を帰らせてゾフ王が俺だけに声をかけた。


「ハルキゲニア君、何か言いたいことがありそうだな。」


「はい、王様。ガラス村を焼いたのは私ではありません。

私はただの村人ですから炎のイフリートなど召還できません。」


ゾフ王のフェルト生地のような黒い眼が深い穴のように変わった。






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