第12話 風向き

「ハルキゲニア殿、ここから逃げるつもりなら一度だけ見逃します。

王宮の女賢者として全て私が責任を取ります。」


賢者の読心術だな。

シルクさんが俺の心を読んで、そう切り出したが、

こっちは女戦士シャイニーたちの指がかかっている。

だから絶対に首謀者オリベが潜むガラス村を焼き払わなければならない。

もしも俺がここで逃げたとして運よく生き延びて

シャイニーやマッシやホテイトたちに何年かして再会できたとして、

三人はひどい拷問を受けたあとであって、

俺が逃げたせいだと聞かされているはずであって、

俺は許されないだろうし、

それよりなによりシャイニーたちは

全ての手の指を失っている。


シルクさんの申し出を断って皆で小屋で休むと日が暮れはじめた。

俺たちは暗くなるのを待ってガラス村へ向かった。

馬車2台に12名。

俺は持参した紙のメモ帳にインクで魔方陣を描き始めた。


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馬車の中で護衛のひとりがメモ帳をのぞき込んで練習か?と聞いてきた。

俺は以前、地面に魔方陣を描こうとしたときに、敵に消されたことを話した。

このメンバーならトム王子、シルクさん、ゴライアスが知っている。

地面に木の棒で文字を描くというのは不安な要素がある。

たとえば雨が降ってぬかるみの地面には文字が書きにくいし、

凍った地面にも木の枝では魔方陣を描けない。

そんな理由を話して紙のメモ帳を使うようにしたと答えた。

話を聞いた護衛はとても納得したらしく大きくうなずいた。

しかし地面に魔方陣を描こうが紙に描こうが消されようが関係ない。

俺は村人レベル1だからイフリートなんか召還できないんだから。

念のためメモ帳で練習までするとは、どうかしている。


馬車には明かりとしてランプが積んである。

そのランプのオイルが古いのか焦げ臭い。

その匂いは俺たちの極秘作戦を隠すように充満している。

周囲は真っ暗だがランプの匂いがあたりを警戒してくれる。

これなら狩猟小屋で何かトラブルがあって、

ガラス村に宿を探しに来た一行のように見えるだろう。

その一行が王族のお忍びで狩猟に来ていたとしても不自然ではない。

風向きが変わったのかランプのオイルがますます焦げ臭くなった。


案内人のひとりが、そろそろ村の手前の丘ですがね、と言ってきた。

つまり、もう召喚魔法の射程距離に入っているだろう?という意味だ。

はやくイフリートを召還して終わらそうという意味だ。

俺は「せめてあの丘の上、村が目で見える場所まで進んでくれ。」と答えた。

さらに逃げ出すチャンスはもう無いなと開き直って

「俺は一度もガラス村を見たことが無い。

だいたいこのあたりの、この方角と言われても、

イフリートを完全にコントロールすることは難しい。

目視できる場所なら完璧にやれる。夜でもやれる。」

と言ってやった。


そして馬車二台は真っ暗な中を丘の上まで進んだ。

丘の上からガラス村が見えたが、

村全体が

激しい炎に

包まれて

真っ赤に

燃えていた。



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