第11話 紋章

二台の馬車に乗った俺たち12名はガラス村の西の森の小屋を目指した。

馬車二台というのは俺の召喚獣イフリートから身を守るギリギリの人数だ。

召喚士は召喚獣の炎で焼かれないように結界を張る。

それが最大で馬車二台分というわけだ。

二台の馬車には12名が乗っている。

メンバーは地元の地理に詳しい案内役、王宮の護衛など。


「トム王子、まだ時間がかかりそうです。そろそろ食事にしましょう。」


護衛のひとりがトム王子に声をかけて休憩になった。

王子は狩人の衣服を身に着けている。

俺たちはガラス村を焼き払いに行くのだが、そのままでは怪しまれる。

そこでトム王子の趣味の狩猟に偽装して村に接近する。

もちろん狩猟には危険がともなうので武器を持っていても自然だ。

まさか道中で馬車の荷を調べられることはないだろうが。

狩猟は夜間に移動する理由にはなる。


どうするんだ、これ。

イフリートを召還できないことは俺が一番良く分かっている。

レベルがまだ足りないとか気合い不足とか、

そういう問題ではない。

俺は村人レベル1なんだからジョブが違う。

たとえば戦士が魔法を使えるようになるか?

普通は無理。

ただボス戦であと一回攻撃するために必死で戦士が回復魔法を唱えたとする。

本当に偶然に体力が少しだけ回復するような奇跡が起きるかもしれない。

もしも奇跡が起きたとしてもショボい回復魔法が一回のみだ。

そんな奇跡はありうる。

しかし俺が出したいのは極大化した召喚獣イフリート。

街を瞬時に焼き尽くすほどの。

俺の嘘をなめてもらっては困る。

先ほどの戦士の例でいえば全体蘇生魔法&全体回復魔法を唱えるようなものだ。

しょぼい回復魔法とは違う。

何がどう転んで奇跡が起きても急にイフリート召還は無理。

ちっさい赤ちゃんイフリートだって無理。


トム王子の狩猟の服は緑色で高級な仕立てだ。

肩には王族の紋章の肩当て。

スネにも飾りのついた銀の防具をつけている。

王族の紋章は緑の龍が赤い炎を吐いている絵柄で恐ろしい。

紋章の枠に閉じ込められている龍は手足を捻じ曲げられて怒り狂っている。


馬車にはトム王子のほかに女賢者シルク、戦士ゴライアスも乗っている。

これは南のダンジョンのゴーレム退治のメンバーだ。

トム王子が人選したなら、うなずける。

話を聞けば、ゾフ王は王族のひとりを見届け人として

現場に行かせなければならないと言っていたそうだ。

首謀者オリベは第一王子暗殺の犯人だから王族が報復をするという意味がある。


ようやくガラス村の西の森の狩猟小屋に着いた。

狩猟小屋の外に俺とシルクさんだけが出てしばらく歩いた。

ここまでくれば狩猟小屋は見えるが俺たちの声は聞こえない。

そのまま俺たちは「魔法打ち合わせ」をすることにした。

これはもしも戦闘になった場合の事前打ち合わせだ。

魔術を使えるメインの者だけで行う。

このメンバーなら俺と女賢者シルクさんの二名だ。

打ち合わせは主に残りの魔力や魔力回復薬の残数などを確認する。

情報漏洩をふせぐために打ち合わせは魔術を使える者だけで行う。


打ち合わせ中に女賢者シルクさんが切り出した。

「ハルキゲニア殿、ここから逃げるつもりなら一度だけ見逃します。

王宮の女賢者として全て私が責任を取ります。」








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