第9話 影

「本当だ!こいつは村人だ! 」

「ハルキゲニア氏の職業は村人レベル1だ!」

何名もの客が検証のため俺にステータス開示魔法をかけた。


逃げられない。

終わったな。

どだい無理がある。

村人レベル1が限定召喚士を名乗るなんて。

謝っても許されないが。

謝るしかなさそうだ。


「皆さんを、だます形になって、申し訳ない。

そして、トム王子にも、謝罪します。」


客はざわついている。

トム王子やシルクさん、ゴライアスは複雑な表情を浮かべていた。

それは、お前がいなければダンジョンで全滅していたのだから、

ここに立っていられなかったのだから、

だから、

という表情に見えた。


「私、ハルキゲニアにも、弱点は、ございます。

召喚士は高レベルになっても、いっこうに体力や防御力が上がりません。

高価な装備で防御力を高めても限界があります。

特にボス戦、相手が魔導士系、魔王系のボスの場合が危険です。

敵はまずステータス開示魔法を使って全員の職業やレベルを読んできます。

するとステータス開示魔法で私が「高レベル召喚士」だと一発でバレるわけです。

敵は強い召喚獣を召還される前に優先して私を狙ってきます。

ですからステータスの表示を「村人レベル1」に変えておく秘術を用いたわけです。

この表示だけを変える秘術は精神の刺青のようなもので、

一度変えると元に戻せないのです。」


王宮の壁には多くの絵画が飾られている。

金色の壁に金色の額縁。

ロウソクの照明を金色の壁が反射して部屋全体がまるで発光しているみたいだ。

この部屋では、あらゆる方向から光に照らされて影ができない。

全ては明るみに出され人が浮かび上がる。


「ステータスを変える秘術、わしは聞いたことがあるぞ!」

来客の太った富豪が声を出した。

「わしが東方の国に立ち寄った時に、その秘術を噂で聞いたぞ。」

客たちは、そうなのかと騒いでいる。


おい、そこの太った富豪、

嘘をつくな。

その秘術は俺が今つくった創作だ。

ステータスを変える秘術なんか、ねえよ。

俺は村人レベル1なんだよ。

知ったかぶりをしてんじゃねえ。

まったく。


トム王子が口を開いた。

「たしかにハルキゲニアは限定召喚士だ。もしも彼が村人なら北の山のドラゴン討伐や南のダンジョンのゴーレムを倒したことと矛盾する。どちらも村人をパーティに入れて倒せるような甘いボスではない。」


王子の成人の儀式のお披露目が終わり、噂は街に知れ渡った。

戦闘でもないのに相手にステータス開示魔法をかけるのは無礼な行いだ。

しかし新米の輩魔導士は街で俺を見かけると

「ステータス開示魔法かけて良いっすか?」と言ってくる。

俺は「今はプライベートだから」と断るが印象は悪くなっていないようだ。


その後、しばらく街で過ごした。

シャイニーやホテイト、マッシの屋敷に顔を見にいったりしていた。

ひと月ほどして俺は再びゾフ王に呼ばれ王宮に出向いた。


「おう。ハルキゲニア君、来たか。頼みがある。

村をひとつ、焼いてもらいたい。」

今日のゾフ王の眼は、はじめから深い穴のような黒。


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