第8話 ロウソク
「召還魔法も攻撃魔法も使えずにどうやって?」
宮廷に呼ばれた有力者が俺たち四名に質問してきた。
南のダンジョンのゴーレムを倒した俺たちは王都に帰って来た。
四日間休んでいる間にダンジョンの探索が行われ、結界は全て解かれていることが判明した。
その後、トム王子の成人の儀式が執り行われて宮廷ではお披露目式だ。
街の有力者や富豪はトム王子の成人を祝うため、そして武勇伝を聞くために集まっていた。
「こちらの勇敢なトム王子は止まった時の中で女賢者シルクさんが肝だと見抜いたわけです。そして戦闘を長引かせる戦法を提案しました。」
そう俺が話を盛ってしゃべると賓客は大いに盛り上がった。
やはりトム王子、若いのに頭が良い。などなど。
俺が横にいるトム王子の顔をうかがうと、「盛ってんなよ」という照れた表情だった。
「この戦士ゴライアスも時が止まっている間は死亡していたのですが、蘇生するとすぐに戦術を理解したようで、とにかく攻撃、攻撃と。前へ、前へと。さすが宮廷の戦士です。」
そんな風に少し盛ってエピソードトークをすると戦士系の有力者や騎士たちは笑い声をあげて、そうだろう、当然だろう、ゴライアスは俺たちが育てたなどなど。
「私ハルキゲニアが最も驚いたのは、女賢者シルクさんです。ここにいる彼女は皆で決めた回復魔法の優先順位を途中から勝手に変更しましてね。もともとの優先順位はまずシルクさん、次に戦士ゴライアス、次が盾となるトム王子と同じく召喚士ハルキゲニアです。その順番で優先して蘇生、回復魔法を使うというものでした。」
魔導士系の客は、蘇生魔法を使う者が死ぬと終わるから当然だと納得していた。さらに敵にダメージを与えられるのが戦士ゴライアスしかいないから二番手は彼だと、同じ意見のようだった。
「しかしシルクさんの変更した優先順位はまず彼女自身、次に盾役のトム王子と私ハルキゲニア、最後が戦士ゴライアスだったわけです。」
コレは盛っていない。
客がざわざわして、しきりに首をひねって質問をしようとしていた。
「シルクさんは自分自身が死ぬと全滅するという理を強く意識していたんですね。それもゴーレムのパンチを受けると悪くすると一発で死ぬ。ですから盾役の二名を蘇生させ続けることも優先度が高いと現場で判断したわけです。より確実に安全に長引かせるように。」
魔導士系の客が彼女の思考力と決断力に感嘆の声を漏らした。
「ハルキゲニア殿は何を考えていましたか?」
「私はもうシルクさんの盾になることだけを考えてトム王子と400回以上は死にましたね。40回ぐらい死ぬと、数えるのも嫌になって他のことを考えていましたよ。」
「他のこと? 例えば何を?」
「ゴーレム戦で召還魔法が使えなかったのは床に魔方陣を描いたからです。強烈なゴーレムの床叩きで魔方陣が消されてしまったのが原因です。ご存じのように魔導士系は呪文の詠唱、召喚士は魔方陣を描くことが魔法発動の引き金となります。」
「この引き金は寝ている時に夢の中で魔法を使っても効果が無いようにという安全装置の役割をしています。夢の中で炎系の魔法を使うと部屋の中が火事になる。」
この鉄板の魔導士ギャグに客が爆笑した。
「私ハルキゲニアも召還魔法の引き金として地面に魔方陣を描きますが、今度から紙にペンで描くことにしようと後悔しながら戦っておりました。」
宴の終わりに招待客からメモ帳をたくさんもらった。
本革のカバーのついた高級品だ。
表紙には金色の刻印がされていてロウソクの炎で光っていた。
テーブルの上の四本のロウソクは消えそうで消えない。
そのうちの一本は、まがい物のように見えた。
酒に酔った魔導士系の男性客が俺に叫んだ。
「おい!こいつは村人だ! ハルキゲニア氏の職業は村人レベル1だ!」
何人もの「無礼だぞ!」という声はしたが、数名が魔法を詠唱する声もしている。
これは・・・・ステータス開示魔法だ!!
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