第5話 彫金

「陛下、この6名が北の山ドラゴン征伐を成し遂げた者です。」

側近がゾフ国王に俺たちを紹介した。

俺たち6名は片膝をついてじっと話を聞いている。


「戦士マッシ、

戦士ホテイト、

女戦士シャイニー、

女僧侶ミル、

魔法使いグリン、

召喚士ハルキゲニア。」


「チャッ」

国王の護衛の兵士は豪華なシルバーのヨロイを着ている。

「チャッ」

そのヨロイには連続的な彫金がされていて、目がくらむほどだ。

ほとんど動かない人形のような兵士から「チャッ」と音がした。

動かないといっても重い剣を持ちなおしたり少しは動く。

「チャッ」

はじめは俺たちへの威嚇かと思えた。

妙な動きをすればすぐに12本の剣が抜かれる。

しかし「チャッ」という金属音はランダムに鳴っていることが分かった。


ゾフ国王は事前に情報を得ているのか俺に話かけてきた。

「召喚士ハルキゲニア、

聞けば限定召喚士というではないか?

それはマコトか?」


残念!

全部うそです!

ただの村人レベル1です!

なんて言えるわけない。


「はい陛下、私は秘儀により召喚獣を一体に限定して極大化させました。」

「ほう、噂はマコトか、しておぬしの召喚獣は?」

「はい陛下、我が召喚獣は炎のイフリート。イフリートのみ。」


「おお!」という声とともに玉座の間がざわざわし始めた。

「聞けば、そちのイフリートは街を丸ごと灰にできるというではないか。」

「はい陛下、ですからダンジョンの強力なボスを倒すのに適しています。

それ以外の戦闘では余計なモノまで焼いてしまうため使いづらいのです。」

「うむ、そうか。

この6名は特別な客人として、もてなそう。

しばらく滞在して詳しい武勇伝を皆に聞かせてやってくれ。」


それから一か月ほど王都に滞在して各所を見てまわった。

女僧侶ミルは報酬のほとんどを寄付して修道院に住んでいる。

魔法使いグリンは魔術道具専門店を開いた。

兄弟戦士マッシとホテイトは女戦士シャイニーと共同で屋敷を購入した。

屋敷で剣術道場をしつつ冒険の拠点にするつもりだ。

この屋敷に俺たち6名は何度も集まって王都の良さを語った。

どうやら皆ここに定住するらしい。


俺は再び王宮に呼ばれてゾフ王に謁見した。

ゾフ王がリラックスしている時、彼の目は黒いフェルトのような質感になっている。

「召喚士ハルキゲニア。

第6王子の成人の儀式のため、南のダンジョンに行ってくれないか?」


「陛下、わたくしハルキゲニアは家来ではございません。

はるか東方より来た、一人の旅人でございます。

もしも断ったらどうなりますか?」


「ハルキゲニア君。きみの意思を尊重しよう。

受けるも断るも自由。

ところで、魔法使いグリンが店を出したそうだな。」


「はい陛下、おかげさまで順調のようです。」


「兄弟戦士と女戦士は屋敷を購入したと聞いたぞ。」


「はい陛下。」


「女僧侶も王都の修道院に入ったそうだな。」


「はい。陛下。」


「ハルキゲニア君。きみの意思を尊重しよう。

ただ我が国は君のような有能な召喚士を敵国に渡すわけには、いかない。

それを忘れては、ならん。

いいな?」


「はい。陛下。」


ソフトな脅しか。

俺が逃げたりすれば、報復はシャイニーたちに。

ひと月ほど前に知り合った仲だから義理は無いが5名の顔は浮かぶ。

いつのまにかゾフ国王の目がフェルトから深い穴に変わっていた。




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