第22話
「じゃあね」
「……」
玄関で先に靴を履き、私はアイツに別れを告げる。
アイツとは、この部屋で別れようと話した。
私が先に部屋を出て、アイツがその後に部屋を出る。それが私の最後のケジメだった。
ずっと黙っていたアイツが、握手を求めて差し出した私の腕を掴んで抱き寄せた。
「このまま……二人で何処かに逃げましょう」
そう言われて、私は首を横に振った。
「もう、これで本当に最後だよ」
真っ直ぐにアイツを見つめて言うと、アイツの瞳から涙が流れては落ちて行く。
頬を伝う涙を拭って上げたくなったけど、私は拳を握り締め
「じゃあね、バイバイ」
って、必死に笑顔を作った。
背中を向けた私の身体を、アイツが強く抱き締める。
「そんな顔されたら、手放せない」
そう言われて、涙が溢れて止まらない。
でも、私はアイツの手を解いて
「健人……愛してる。でも、愛してるから……さよなら」
そう言ってドアを飛び出した。
ゆっくりと飛び出したドアの向こうに、崩れ落ちるアイツの姿が見えた。
本当は、引き返したかった。
アイツの震える身体を、強く抱き締めたかった。
でも、私達にはそれぞれ待っている人が居る。
それは変えられない事実。
涙を拭い、私は足早に駅へと向かった。
電車の乗り継ぎでアイツとかち合わないように、わざと、遠回りをして帰った。
帰りの道中、泣いて泣いて……涙が枯れるまで泣き続けた。
心が死んでしまったんじゃないかと思う程、私は泣きながら現実世界へと戻って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます