第15話

アイツが新婚旅行に行ってから1週間後。

いつもの日常が戻って来た。

アイツは相変わらずの無愛想さで、駅の階段を登っていた。

私はそっとエスカレーターに乗り換えて、わざとタイミングをズラす。

よし!今日は改札で合わなかった!

ガッツポーズをしてエレベーターに乗り込んだ時

「おはようございます」

と、聞き覚えのある声が背後から聞こえた。

驚いて振り向いて見上げると、アイツが相変わらずの無表情で立っている。

「おはよう……ございます」

ぽつりと呟いた私に、アイツはその後無言のまま自分達のオフィスがある階で降りた。

月曜日の朝、独特の気怠さが漂うオフィスを歩いていると

「鮫島さん」

と、アイツが声を掛けて来た。

驚いて見上げた私に、アイツはポケットから小さな包みを取り出して私の手の上に置いた。

「え?」

驚いてアイツを見ている私に

「お土産です」

って、ぶっきらぼうに呟く。

私はハッとして

「新婚旅行だったんだよね。楽しかった?」

おちゃらけたようにそう言って笑いかけると、アイツはやっぱり何を考えているのか分からない瞳で私を見下ろすと、何も答えずに

「俺、サーバー室に行くんで」

とだけ言い残して去ってしまった。

席に戻って手渡された包みを開けると、綺麗なガラス細工のペンダントヘッドだった。

真っ青な、青空のように青い綺麗な硝子細工に思わず笑みが溢れる。

誰かに見られたら面倒だと、私がそっと鞄に包みを入れた時だった。

アイツの奥さんであろう、総務の女の子がお土産のお菓子を配りに来ていた。

「新婚旅行どうだった?」

と聞かれて、アイツの奥さんは苦笑いを浮かべて

「初日に喧嘩しちゃって……」

と言うと

「だって、前日に朝帰りするから……」

って、明らかに私への当てつけをして来た。

するとアイツが現れて

「お前、何してんの?こっちの部署、お前は関係ないんだから、お菓子配りにとか来るなよ」

と、冷たく言い放った。

すると彼女と話していた他の人達が

「そんな言い方酷くない?」

とか

「朝帰りした方が悪いんじゃん」

と、口々に言い出す。

面倒臭そうにしているアイツの顔を見て、私は席を立ち上がり奥さんの前に立つと

「何をどう思ってその話を此処でしているのか分からないけど、飲み会には小田切も居たし、その後、私は自宅に帰宅。駅前で彼とは分かれてます。新婚旅行前日に、嫌な思いをさせてごめんなさい」

そう言って、アイツの奥さんに深々と頭を下げた。

「心配なら、その日は私の旦那が休みだったから証言させましょうか?小田切に聞いてもらっても良いわよ」

そう言うと、アイツの奥さんは私の顔をジッと見てから

「そうですよね、すみません。まさか、鮫島さんがこんなに年上の方だったなんて知らなくて……」

と言うと、余裕の笑顔に変わった。

(その態度……ムカつく~!)

心の中で呟きながら、顔では笑顔を作って

「色々と、配慮が足らずに本当にごめんなさいね」

そう言うと、私は事務所から早歩きで出て行った。

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