第16話

(オバサンで悪かったわね!)

腸が煮えくり返る思いで歩いて居ると

「蓮田さん!待って下さい」

そう言って、アイツが追い掛けて来た。

無視して歩いていると、腕を掴まれて近くのサーバールームに押し込められた。

「蓮田さん!話を聞いて下さい!」

そう言われて、壁に両手を着いたアイツに閉じ込められてしまう。

「蓮田さん……」

「鮫島!私の名前は鮫島です!旧姓で呼ばないで!」

睨み上げた視線が絡み合った瞬間だった。

顎を掴まれて、アイツに唇を奪われてしまう。

抵抗しようとした腕を掴まれ、頭の上で一纏めにされてしまう。

「蓮田さん、俺はあんたが好きなんです」

そう言われて、気持ちがグラリと揺れる。

「あんなに若くて綺麗な奥さんが居るのに、ふざけないで!」

叫んだ私を、彼が強く抱き締めた。

ふわりと香る彼の香り。

「聞こえますか?俺の心臓の音」

そう囁かれ、抵抗しようとした身体の力が抜ける。

ドクドクと早鐘を鳴らす彼の鼓動と、私の鼓動が重なる。

互いの体温と呼吸音が……隠していたお互いの気持ちを曝け出す。

絡み合う視線が近付き、ゆっくりと唇が重なる。

「彩花…逃げないで……」

掠れたアイツの声が、私の鼓膜に届く。

私の全身から力が抜けて行く。

私が逃げ出さないよう、強く強く抱き締めたアイツ腕に……囚われてしまった。



この日の夜

私とアイツは、世間から眉をひそめられる「不倫」と呼ばれる関係になった。

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