第12話
私は(このまま一緒に居たらダメだ!)と、咄嗟に感じて
「もう!三島君も酔っ払い?私、ここで大丈夫だから、三島君はホテルに行きなさい。私はタクシーで帰るから」
そう言って、三島君に背を向けてタクシーを止めて乗り込んだ。
「蓮田さん!」
私を旧姓で呼ぶ三島君を置いて、その場から逃げ出した。
怖かった。
もし、あのまま強引に誘われたら、拒める自信が無かった。
まだ結婚する前、総務人事の仕事をしていた私を見て入社してくれたと言ってくれた事は嬉しかった。
あの頃、人事部の上司達からは、面接に来る新卒一人一人に気持ちを掛け過ぎると注意されていたから……。
面接に来て、スーツの襟が立っていたら直して上げたり、髪の毛がほつれている女の子にはそっと教えて直して上げたりしてた。
そういう事を知るのも面接で見極める為に必要だと言われたが、この就職宣戦で本人の実力以外で振り落とされるのは見ていられなかった。
確かに、普段からだらしがなさそうな人だったら手を出したりはしない。
でも、道に迷って必死になって到着した人にそんな酷い事はどうしても出来なかった。
でも結局、それがダメだと批判のネタになって、私は人材派遣部門の方へと飛ばされたのだ。
仕方が無いと諦めていたけど、それを見ていてくれていた人が居たのは嬉しかった。
あの頃、何をやっても悪く取られて落ち込んでいた自分を掬い上げてもらえたような気持ちになった。
……でも、出会ったのが遅かった。
お互い、フリーで出会っていたら違かったのかな?とふと考えて、その考えを首を振って否定する。
もう、終わったこと
タクシーの中で、自分にそう言い聞かせる。
タクシーの窓に映る私は、もう、とっくに女性の消費期限を終えて朽ち果てるのを待つだけの姿だった。
もう、私は「女性」だけど「女」では無いのだと自分に何度も言い聞かせる。
新人の頃、40代後半で若い男の子を追いかけていた先輩を思い出し、溜息を吐いた。
彼等には彼等の世界がある。
もう、彼の遺伝子を残す事のできない自分には、誰かを好きになる権利は無いのだと、自分を無理矢理納得させた。
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