第11話

なんだかんだと小田切の話術で話題が尽きる事無く、飲み会は過ぎて行った。

そして小田切が時計を見ると

「やべ!三島君、終電無くなるから帰った方が良いよ」

と彼に声を掛けた。

彼は慌てる感じでも無く、時計を見て

「あ……もう無理ですね」

って言いながら、落ち着いて残りのビールを飲み干した。

小田切は申し訳なさそうな顔をして

「新婚さんなのに……朝帰りさせてごめん」

と呟くと、彼は席を立って

「ちょっと電話して来ます」

そう言い残し外へ出た。

「もう!終電逃す程、付き合わせるとか……」

呆れて私が呟くと

「いや、三島君ってこういうのに付き合わなそうなイメージだったから、つい楽しくて」

って小田切が笑っている。

「で、お前はどうなんだよ」

小田切は、頬杖を付いて私の顔を見ると呟いた。

「どうって?」

「夫婦生活。うちはセックスレスで離婚だったけど、お前の所は大丈夫なのか?」

と聞かれた。

「……あんた。相変わらず、普通の人が聞きづらい事を平気で聞いてくるよね」

呆れて私がそう答えると

「気になるからさ、彩花の事」

微笑んで言われて、私は目を据わらせる。

「小田切に心配されるなんて、私も落ちぶれたわね……」

そう呟いて、目の前のレモンサワーに手を伸ばした瞬間

「お前、本気で俺に興味無いの?」

と言われて目を見開く。

「俺だったら、ちゃんとお前に子供くらい産ませて上げられた」

そう言われて、私は苦笑いを浮かべて

「私が子供を産めない身体だったかもしれないでしょう?」

と答えると

「それでも、何もしないで諦める事は無かったんじゃないのか?」

そう言われて、私は溜め息を吐いた。

「小田切。もし、あんたが私に対して恋愛的な関係を望むなら……それは無理だよ。私にとってあんたは戦友で、それ以上でもそれ以下でも無い。もし、私の態度があんたに勘違いさせたなら……ごめん」

私の言葉に小田切が口を開きかけた時

「あの……」

と、彼が私の背後から声を掛けた。

「今日、ビジホに泊まるんで、最後まで一緒に居て良いですか?」

そう言って、やっぱり何を考えているのか分からない表情で席に着いた。

すると小田切が

「え?うちに泊まれば?」

と言ったのだが

「俺、人の寝息とか無理なんで」

って答えてビールのお代わりをしていた。

なんとなく気まずい雰囲気になりかけていたので、彼の登場にホッとしていた。

その後、30分ほどでお開きになり

「彩花、送って行くよ」

と小田切に言われてしまう。

あの話の後に2人きりになる事に戸惑っていると

「小田切さんは酔っ払ってるみたいなんで、俺が送って行きますから大丈夫です」

そう言い出した。

「え?だって……三島君、この辺の事わからないよね?」

戸惑う小田切に

「別に、来た道を戻るだけですよね。大丈夫です」

と、有無を言わせぬ圧で言い放った。

小田切はバツが悪そうに

「じゃあ、三島君にお願いしようかな」

そう言って苦笑いすると、小田切の奢りで私達はお店を後にした。

「ホテル探すでしょう?私の事は気にしないで良いよ」

小田切と分かれた後、彼にそう言うと

「俺、送るって言いませんでした?」

と言われてしまう。

私は歩き出した彼に

「ありがとう」

と、自宅への道を歩きながらぽつりと呟くと、彼は私を見下ろして

「鮫島サンって、しっかりしてそうで隙があるんですね」

と言われてしまった。

でも……まぁ、小田切に付け入る隙があると思わせてしまったのかもしれないので、反論をぐっと我慢していると

「俺、あなたに会いたくて入社したんすよ」

と、ぽつりと言い出した。

「え?」

驚いて彼の顔を見上げると

「鮫島サン、旧姓は蓮田さんでしたよね?」

そう言われて、思わず足が止まる。

「会社説明の時、入社試験の時、俺、ずっとあなたが一生懸命に俺達学生に向き合ってくれてる姿に感動して、この会社に入社したんです」

彼の熱のこもった視線が、私の視線を絡め取る。

「俺、ずっと蓮田さんが好きでした」

彼の言葉に、まるで時が止まったように動けなくなる。

「もう無理なんだと諦めて結婚したら、なんで本社に戻って来るんだよ……」

片手で目を隠すと、重い鉛を吐き出すように呟かれた。

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