第10話
会社が実態調査をして、全くの勘違いとなり事なきを得た。
小田切は人当たりが良く誰に対しても優しいので、若い頃はとにかくモテていた。
小田切の元奥さんは、学生時代から付き合っていた人で、小田切を押して押してやっと結婚まで漕ぎ着けた人だった。
小田切がモテるのを知っていたので、定時の時間になると会社に電話して何時に帰宅するのかを確認していた程に執着していたっけ……。
当時、小田切は営業所を任されて、なんとか持ち直そうと必死だったんだと思う。
そんな小田切に、元奥さんは私との仲を勘ぐってしまったのだろう。
正直、新婚だったし、周りも「そんな訳ない」と言ってくれてもいた。
私と小田切は「男女」というよりも、「気心が知れた仲間」という意識だったから、本当に驚いた。
「冗談止めてよ!今更、小田切をそんな目で見られる訳ないでしょう」
そう言って笑う私に、小田切は
「これだよ!彩花だけは、何があっても俺に興味を示さ無かったよな」
って言って笑うと
「鮫島サンって、恋愛結婚ですか?」
と、本当は興味無いんじゃないの?って聞きたくなるほど無表情で聞かれた。
すると何故か小田切が
「君島課長の紹介だよな!こいつ、前に付き合ってた男に酷い目に遭って、恋愛結婚はしません!って豪語してたんだぜ」
って笑ってる。
「大体、歳下なんか相手にするから痛い目に合うんだよ」
と、酔っ払った小田切がベラベラと人の過去を明かして行く。
「ちょ……!小田切!それ以上喋ったら、二度と手伝わないからね!」
そう言って睨んだ私に
「その話、もっと聞きたいです」
って彼が言い出した。
「だろう!酒の肴には、人の恋愛話だよな」
って、小田切が笑っているので私が再び睨み付けると
「怖!見た、あの顔」
と言いながら、彼に私の顔を指さした。
「大体さ、彩花は年下は無理だって。世話焼きすぎるんだよ」
小田切はそう言うと、お酒を口にしながら
「前の彼氏って7つ下だっけ?こいつに惚れて、何度も振られても食らい付いて付き合ったのに、結局、結婚を決めたのは若い自分より年下の女だったんだよな。あれはさ……、俺から見ても酷いと思ったよ」
ぽつりと呟いた。
「もう、10年以上前の話なんて止めて!未練も無ければ、何とも思っていないんだから」
私が小さく微笑んで呟くと
「鮫島サンは何も言わなかったんですか?」
って、彼が食い付いて来た。
私は溜め息を吐いて
「言ってどうなるの?既に婚約してたし、やっぱり7つも年上の女より若い子が良いのは理解出来るから……」
そう答えると
「俺だったら、文句言って欲しいです」
と言い出した。
「え?」
驚いた私に
「すんなり手を引かれたら、好かれてなかったみたいじゃないですか」
そう言う彼に、私が一瞬唖然としてから
「悪いけど…、私にはそういうの向いてないから……」
濁して答えると
「向いてる向いてないって何ですか?本当に好きだったら、カッコ悪くても足掻いたら良いじゃないですか!」
彼の言葉に声を失う。
好きだったのか?と聞かれたら、情だったのかもしれない。
新入社員で入って来て、面倒を見ていた元彼に告白されて付き合い出した。
仕事優先で、元彼には
「彩花さんが俺のことを本当に好きなのか分からない」
と言われた。
若いから肉体関係を求められても、あまり応えてはあげられなかった。
当時、小田切に
「もう少し、相手の事も考えてやれば?」
と言われたのを思い出した。
「まぁ……確かに、彩花にしてたアドバイスって、野郎友達にしていたアドバイスだったなぁ〜」
と小田切は呟き
「彩花が取り乱す姿って、想像出来ないな〜」
って言われた。
女友達が彼氏と別れる度に「死ぬ!」って大騒ぎしていたのを見ていたからなのか、ずっと「あぁはなるまい」と、つい、自分を抑えてしまう癖が着いた。
それがきっと、冷めていると見えてしまうのだろう。
私だって傷付くし、前の彼氏と別れた時は部屋で一人泣いていた。
ただ、30歳も半ばまで生きていると、人前で弱さを見せられなくなってしまう。
女を出すのも、弱さを出すのも負けた気がしてしまったのだ。
前の彼氏から別れを告げられた時、泣けば良かったのだろうか?
取り乱せば良かったのだろうか?
今となっては、どうにもならない話に苦笑いを浮かべていた。
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