第9話

小田切は

「じゃあ、行くか!」

そう言って私の隣に並んだ。

「私より、三島君にお店を案内しなさいよ」

と言うと、小田切は「あぁ、そっか」と言いながら彼へ視線を向けた。

「じゃあ、行きますか」

そう言うと3人で歩き始めたが、彼は口数が少なく、お店へ向かう道中も小田切の話に相槌を打つくらいだった。

営業所時代に通ったお店へ行くと

「おぉ!彩花ちゃん、いらっしゃい」

と、マスターが声を掛けてくれた。

奥のテーブルに通され、今回の経緯を愚痴る小田切の愚痴に付き合っていると、途中で小田切に電話が入った。

「悪い、ちょっと外すわ!」

そう言って小田切が席を外すと、二人だけの重い沈黙が流れる。

小田切の隣に座っていた彼は

「仲良いんですね」

と、ポツリと言葉を発した。

「え?小田切?同期だからね」

そう言って笑うと、彼は一瞬箸を止めて

「……鮫島さんって、40代だったんですか?」

と呟いた。

「そうだよ。だから、ババアだって言ってるじゃない」

そう言いながら笑う私に

「見えないですね」

って呟いた。

「そう?でも、まごうことなき45歳よ」

笑って答えた私に

「え!俺より一回り以上、上ですか」

と、目を丸くした。

「そうよ!分かったら、敬いなさい!」

私が笑っておでこを突っつくと、突然指を掴まれ

「年下だからって、バカにしないで下さい!」

と言われてしまう。

「バカにはしてないよ」

驚いて言うと

「俺も男なんですよ……、分かってますか?」

そう言われた。

「毎朝一緒になるのは……ワザとですか?偶然ですか?」

突然、ポツリと言われて言葉を失う。

驚いて顔を凝視していると

「否定しないなら、毎朝、俺を待ってるって思いますよ」

真っ直ぐに見つめる彼の瞳は、まだ若い綺麗な瞳。

私は苦笑いを浮かべて

「ワザとな訳、無いでしょう!偶然よ!あ!もしかして、ババアにストーカーされてると思って怯えてた?ごめんね~」

って彼に謝ると、彼が眉間に皺を寄せて

「どうしてそうやって……!」

と言いかけた。

しかし、突然指を離されて再び食事を始めたので疑問の視線を向けると

「悪い悪い。何?2人、会話無し?」

って言いながら、小田切が現れた。

小田切は席に戻ると

「三島君。彩花、本社で上手くやってる?」

と、彼に切り出した。

彼は箸を止めると

「仕事引き受けすぎ、我慢しすぎ」

そう呟いた。

私が驚いて彼の顔を見ると、小田切が苦笑いを浮かべて

「やっぱり……」

と呟く。

「お前、不器用な癖に……」

そう言うと

「こいつ、注意して雰囲気悪くする位なら、自分がやった方がマシってすぐなっちゃうんだよ。だから、一緒に働いてる時は注意して見てやれたんだけどなぁ……」

って溜め息を吐いた。

「そもそも、彩花が異動させられた部署。評判悪いから……。お前に立て直しさせるつもりなんだろうとは思ってたけどさ」

小田切はそう呟いて、お酒を飲み干した。

「あの……」

愚痴る小田切に、彼が不思議そうな顔をしながら

「お2人って……」

と呟いた。

「ん?ただの同期……というより、同士か?彩花が結婚してこの営業所に異動した時に、俺も異動になったんだよ。2人であの営業所を切り盛りして来たからな」

そう言って笑った。

「あ!不倫してるって噂、されたよな!」

小田切が思い出したように言うので

「あったね……。本当に、勘弁して欲しいわ」

そう呟くと

「何で?今や俺は独身だし、彩花ならwelcomeだよ」

って笑う。

派遣登録者数も売り上げも悪かった営業所に、私と小田切が異動させられたのは10年前。

小田切も私も営業所を立て直すのに必死だった。1年が経過した頃、当時の小田切の奥さんが私と小田切の関係を勘ぐって会社に抗議の連絡を入れて来たのだ。

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