嵐神(バアル)こそわが救い ~シチリア、パノルムスに吹きすさぶ嵐~
四谷軒
01 プロローグ 紀元前二五一年、シチリア、パノルムスにて
大地が轟く音が聞こえる。
微細な揺れ、大きな揺れ。
そう、大地が揺れていた。
時は紀元前二五一年。
ここはシチリア、パノルムス。
共和政ローマ
「来るか、ハスドルバル」
ハスドルバル。
カルタゴではわりと一般的な名前で、のちにローマを大いに脅かすハンニバル・バルカの義兄と弟も同名のハズドルバルである。
だが、紀元前二五一年、この第一次ポエニ戦争のパノルムスの戦いにおいて。
今、戦象部隊を率いるハスドルバルは、カルタゴの大貴族、大ハンノの息子のハスドルバルである。
「来たぞ、メテッルス」
ハスドルバルは遥か城壁の高くを望み、そこにメテッルスが立っていることを認めた。
「
その咆哮に、ローマの将兵は狼狽えた。
「先の
「
*
……数年前、
捕らえられたレグルスは、カルタゴでこう言われる。
「ローマに降伏を勧めよ。帰ってくると約束するなら、一度ローマに戻してやる」
この話に乗ったレグルスはローマへ向かった。
カルタゴの市民の心無い者は「あれを見ろ、裏切者だぜ」と嘲笑した。
ところが。
「
徹底抗戦を訴えたレグルスは、周囲の制止を振り切り、約束通りカルタゴへ「帰った」。
「帰った」先で。
怒り狂ったカルタゴの市民が待ち構えており……。
*
「……あの巨象に踏み潰されたそうだ」
「…………」
城壁の上で兵士たちのおしゃべりに耳を傾けていたローマの
「……一別以来か」
「……あの嵐の日に言ったとおり」
「私が」
「おれが」
「貴様を討つ!」
最後の台詞は重なり、そしてメテッルスとハズドルバルに、それぞれ少年の頃の思い出の中へと、一瞬、立ち戻らせていった……。
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