第15話
事前に近くの空いてる空き倉庫を取って、巨大で重たいドラム缶にグレイブスを括り付ける。
ここまで損傷が激しい状態なのに、すでに息はかなり落ち着いていて、流石は魔王軍幹部といったところか。
まあ、休憩時間はここまでだ。
俺は再びショットアイズ5.0で腹をえぐった。
グレイブスが悲鳴を上げる。
「どうだ? 吐く気になったか?」
「はあ……はあ……、クソ食らえ、だ……!」
今度はカタナで左肩を突き刺す。
「ああああああ!」
グレイブスの野太い悲鳴に、キョーカが目をそらした。少々刺激が強すぎたか? だがルーシーは平気らしい。
刀を抜くと、グレイブスは電源を切ったように脱力し、焦点の合わない目で明後日の方向を見つめている。
「意地を張ってもいいことないぞ」
「殺すなら、殺せ……。クククククッ、この程度で俺が吐くとでも?」
肉体的な苦痛だけじゃ、口を開かせるのは難しいか?
バカのくせに思ったより忠誠心が深くて厄介だ。
どうにかしてこいつの心を折るべきだな。
「お前、たしか息子がいたろ。名前はたしか……」
「……調べたのか?」
「もちろん」
大嘘だが。
「人質にでもするつもりか?」
「ああ。お前同様目立つのが好きらしい。居場所ならすでにわかっている」
「いいのか? 人間が産んだガキだぞ」
「所詮オークであることは変わりない」
「クズが……!」
「クズで結構。吐けば見逃してやるぞ?」
「……好きにしろ」
言葉に迷いが見える。もう一押しだな。
「いいか? お前の息子のえぐれた顔面を見たくなきゃ今すぐ──」
「そういうやり方はあんまり好きじゃないよ」
そう言って、サラが俺の横に立った。
「おい。邪魔するな」
「けどダメだよ。相手はモンスターだし、殺すなとは言わないけど、脅しのために使うなんて」
別に俺だって本気じゃねぇよ。居場所も名前も顔も知らないし、って言ってやりたいが、そうすりゃグレイブスにもバレてしまう。
というかなんなんだ、こいつは。いいところを邪魔しやがって。
「あのな、じゃあ他にどうするんだ?」
「こうするの」
サラはサンカを取り出して、コソコソ耳打ちすると床に置いた。
すると不思議なことに、サンカは一人でに立ち上がって、手を万歳し、「キー!」と叫んだ。
俺にはホラー映像にしか見えなかったが、サラには可愛い子猫ちゃんの映像にでも見えたらしい。あくびをしながら優しく微笑んでいる。
数秒後、地獄のような世界は始まった。
ガサガサッと、虫が這う音が倉庫の外から薄ら聞こえたかと思うと、それは段々大きく、大量に響くようになり、とうとう倉庫内に入ってきた。
グレイブスは絶望的な表情で、呟くように懇願した。衰弱して半分閉じていた目は、嘘のように見開いている。
「おい嘘だろ……。やめてくれ、虫は苦手なんだ!」
百や二百なんてもんじゃない。黒の大群が四方から押し寄せ、俺達──いや、グレイブスに向かって突撃する。
つまり、世にも恐ろしいゴキブリの包囲網だ。
奴らはあっという間にグレイブスを取り囲み、さらに体を登っていく。
みるみるうちにグレイブスの体が黒に染まる。
「あああああああ! どけ! やめろ離せ!」
とうとう服の中に入り、素肌を駆け回り、とうとう顔にまで到達した。頭を振って必死に落とそうとするが、この大群相手には効果は薄い。
俺は虫は特別苦手ではないが、流石に吐きそうになって口を押さえた。
「お前、結構グロテスクだな」
「ほんとは蛾と蜂の大群だったんだけど……。やっぱり眠いと調子狂うなあ。まあこの子達も可愛いからいいけど」
「嘘だろ」
倉庫には、グレイブスの悲鳴とゴキブリの大群が動く音と、隅の方でゲロを吐くレイラとキョーカの音でいっぱいになっていた。まさに地獄絵図って感じだ。
ゴキブリはさらに凶暴性を増し、えぐれたグレイブスの体を食い始めた。痛みもさることながら、そのあまりにもみじめな状況に、喉がはち切れんばかりの悲鳴を上げる。
かと思えば、口が開いたのを確認するやいなやゴキブリはその中へ侵入しようと駆け回る。
グレイブスは口を閉じて、頭を必死に振る。
「んんんんんんんっ! やめてぐれーっ!」
「ゴキブリに全身を喰われて死ぬ奴は相当珍しいだろうな。息子も同じ目に合わせてやろうか?」
「わかった話す! 全部話すからやめてくれ!」
俺はショットアイズ5.0で、グレイブスの左足を撃った。
グレイブスは反射的に口を大きく開けて悲鳴を出し、その隙にゴキブリどもはいっせいに口の中へ入っていった。
「や゛べろ゛ーッ! 殺゛じでぐれ! 話すがら全部! 頼む殺゛じでぐれ!」
「……サラ、もういいぞ」
「サンカちゃん、もういいって」
サンカ再び「キーッ!」と叫び、両腕を下ろした。
するとゴキブリ達は、蜘蛛の子散らすようにいっせいに逃げ出していく。グレイブスの口からは、十や二十はいそうなゴキブリが次々と飛び出していった。
グレイブスは、ほとんど白目をむいて、ぴくぴく痙攣している。
「おい、話せ。魔王城はどこにある? ……おい」
応答がない。蹴っても叩いても、ぼーっとした目で俺を見つめるだけで、痙攣したまま一切口を開こうとしない。
「おいルーシー。こいつで遊んでいいぞ」
「ほんとに!? やった!」
ルーシーは嬉しそうに飛び上がると、バッグからアカバナソースを取り出した。この世界で最も辛いと言われる、激辛ソースだ。
チューブを鼻の穴に突っ込んで、無邪気な顔でぎゅっと押す。
グレイブスの顔がみるみるうちに赤くなって、ついに悲鳴を上げてのたうち回った。
「ルーシー。ソース拭いてやれ」
「はーい」
ルーシーがソースを拭き取ると、グレイブスは酒を飲むように酸素を吸って息を整える。
「目が覚めたか?」
「はなから気絶なんかしてねーよ!」
「返事しなかったろ」
「休憩ってもんがあるだろうが! ちくしょう! どっちがバケモンだ!?」
「……場所」
「クソが! ヴェルグレスタワーだ! その地下にある」
ヴェルグレスタワーはたしか、ここヴェルツレエリアの王都であるグレスタにある、国内最高を誇る建造物で、いわゆる観光スポットだったな。なんでも、三十回から見る街の景色は最高だとか何とか。
「って、ここにあるのか? 魔王の城が?」
「ああ。この国を乗っ取る計画だからな。この国には魔王様の息のかかった施設がいくつかあるが、主要なのは二つ。ヴェルグレスタワーの地下と、王宮の地下だ」
「そこには何がある」
「武器庫さ。高性能の武器が山のように開発されて、眠ってる。幹部である俺すら知りえない物もな」
「全く?」
「影も形もな。魔王様と側近幹部二人の三人。それからごく一部の優秀な科学者しか知らない。だが話なら本人から聞いたことがある。世界最強の兵器。今は試作段階だが、完成すれば第二第三魔王すら超えるとおっしゃっていた」
「わかった。情報ありがとう」
「ふんっ、殺すなら殺せ」
「いや、まだ嘘をついていたり、仲間と連絡をとっていて罠だったという可能性もある」
「今さら嘘なんかつくか! じゃあどうするつもりだ」
「俺一人でアジトに乗り込み、真偽を確認する。もし三日経っても帰ってこなかった場合は、さっきの十倍きつい目に合わせてやれ」
レイラ達はこくりとうなずいたが、グレイブスだけは「おおい!」と体を起こした。
「待て待て待て。幹部だらけの場所だぞ!? 魔王様もおられる。そんなところに侵入してみろ。あっという間に捕まって、拷問か死刑だぞ!」
「あら、俺の心配してくれるのか?」
「違う! お前は高確率で帰ってこない! そうなれば痛い目を見るのは俺だぞ!」
俺はグレイブスの頭を優しく撫でた。
「じゃあ捕まらないように、応援してくれ」
「ッ……! さっきから、てめっいくつだおら! 俺二十九だぞ! おい!」
ぎゅっと、キョーカが俺の手を引っ張った。
「本当に大丈夫なんですか? その……考えてみたらたしかに危険です」
「まあ、俺に仲間がいることを吐けば十中八九殺されない。三日経てば、ガイアの応援も届くはずだ。そうしたら、レイラを中心に突撃しろ」
「まさか……最初から捕まるつもりで乗り込むなんてことありませんよね?」
「もちろん」
「じゃあ、いいですけど……」
魔王城侵入作戦開始。
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