第13話

 マルチの人里離れた森の中、ぽつんと場違いな城が立っており、取り囲むように武装した人間達がいる。

 レイラが言った。


「ほんとに人間が出入りしてるのね」

「魔王が世界を征服した暁には、自分達だけは助かって、自由な暮らしをさせてやるとか、そんな約束でもしたんだろ」

「ふん。バカばっかりね。そんな約束魔王が守るわけないじゃない。皆殺しよ皆殺し」

「……そうなのか?」


 俺と奴ら、状況はかなり似たものだと思ってたが。どうやらレイラは俺を殺すつもりらしい。


「ち、私は違うわよ」

「はんっ……返り討ちにしてやる」


 俺に煽られて腹が立ったのか、今の状況を忘れてレイラが大声を出した。


「望むところよバーカ!」

「おま……っ!」


 見張りの奴らがいっせいにこちらを向く。


「誰かいるのか!? 出てこい!」


 クソッ、性悪女が一緒じゃ潜入一つ上手くいかない。

 俺はため息をこぼしながら頭を抱えて、茂みの中から手を上げて身を出した。


「お前一人か? 女の声がしたが」

「まあまあ落ち着け。な?」


 一番前の男が俺を睨んだままゆっくりと剣に手を当てた。

 その瞬間、俺はエースを展開して、相手が剣を抜くよりも早く撃ち殺した。


「やりやがった!」


 それを火種にするように、次々と見張りの奴らがやってきて、俺に攻撃を仕掛けに来る。

 俺は近くにいる奴、攻撃しようとしている奴を優先的に、次々と撃ち殺していく。

 茂みの中でキョーカが叫んだ。


「ちょっと! 相手は」

「たまたま人間に生まれただけの奴らだ。本質はモンスターと変わりない!」


 一分も経てば、こんな雑魚数十人くらい、一度も攻撃を浴びることなく皆殺しにできた。

 死体の山と血の海を歩いて、城へ向かう。

 途中でレイラがしゃがみこんだ。


「ねえ、これっておしゃれ?」


 死体の首を指さす。

 たしかに、見張り全員が同じ黒いチョーカーをつけている。


「かもな」

「違うと思うよ」


 サラが言った。


「イチカが言ってる。嫌な気配がするって」

「まあ、どのみち……ろくなものじゃないんだろうな」


 城のそばにある木にそれぞれ身を隠して、俺は無線を繋げた。


「アジトへ到着した」

『ご苦労。じゃあ捕虜を解放してくれ』

「捕虜!? なんだそれ」

『この国の元冒険者達だ。クエストに失敗し、敵に捕まってる。黒いチョーカーをつけた連中が見えるだろう?』

「え……っ」

『それは爆弾で、そうやって脅して見張りをさせてる。逃げ出そうとしたり無理に外そうとすれば爆発する。でも大丈夫だ。解除方法は入手してる。……もしもし、聞こえてる?』

「あー、その捕虜なんだが……全員死んでる」

『はあ!? なんで』

「さあ? 首が爆発してるなこれは。うーんあと一歩遅かったらしい。うん、非常に残念だ」

『くっ……、まあいい。なら敵を捕まえて情報を聞き出せ』


 ガイアが敵の生け捕りを指示したその瞬間。


「ダーク・サンダーボルト!」


 爆発音のような激しい雷鳴とともに、黒い稲妻が駆ける。

 さっきまで城だったものは一瞬のうちに灰燼と化し、巨大なクレーターが出来上がっていた。燃え盛る跡地で悲鳴一つ聞こえない。


『おい! なんだ今の爆音は』 

「あー悪い。……敵も死んでた」

『はあ? ふざけてるのか?』

「いやいや本当なんだ。たった今死んでた」

『何を言ってるんだ貴様は。敵に繋がる唯一の糸口だぞ!』

「また連絡する」

『あ、ちょっとま』


 無線を切って、ドヤ顔するレイラに近づく。


「おい何やってんだ」

「だって一々隠れてるのめんどくさいし。全員殺すならどうせ結果は同じでしょ?」

「それもそうだな」


 ルーシーがクレーターとレイラを交互に見ながら言った。


「レイラって超すごーい!」


 レイラが勝ち誇った顔で見る。


「すごいだって」

「ガキは頭の悪いものに憧れるからな」


 俺はクレーターに降りて、生存者がいないか探したが、どいつもこいつも黒焦げで原型を留めていない。

 ……いや、それでもだいぶんましな方だ。骨だけになってるやつもいれば、骨すら残ってないやつもいる。最低限人型に見えるだけかなり耐えている。

 しかしこのありさまじゃ、本当に手がかりがなくなってしまう。


「でもほんとに人ばかりですね……」


 目を背けたい気持ちを必死に抑えてますって感じの表情で、キョーカが言った。


「ほんとに殺さなくちゃいけなかったんでしょうか」

「本質はモンスターと変わらない。それにレイラが言ったように、どうせこいつらも魔王に殺され……」

「……? どうしました?」


 そうだ。こいつらは所詮捨て駒。ざっと見た限り三十人、こなごなの灰になってしまった分を考えれば倍の六十人はいてもおかしくない。その数の捨て駒の顔を一々覚えるか? そんなわけない。

 間違いない。何かあるはずだ。魔王軍であるという証が。秘密の合言葉ならお手上げだが、もし何か形に残っているものだとしたら……。

 もう一度くまなく死体を調べる。

 灰を被ったり、溶けて原型を留めてなかったりするが、銀の指輪をつけていることが分かった。急いで別の死体を調べる。

 おそらく同じ指輪だ。

 これだ。これがグレイブスに繋がる道だ。

 俺は近くの死体から一番きれいな指輪を奪い取った。


「指輪だ!」


 レイラ達に向かって言う。


「全員同じ指輪をつけている。近くの死体から、なるべく綺麗なものを選んでもぎ取れ!」


 ルーシーが宝探しでもするかのように飛びついて、早速指輪を掴んだ。そのまま自分の指にはめようとする。


「間違っても指にはめたりするなよ。どんな仕掛けが施されてるか分からないからな」

「私も同感」


 サラが言った。


「さっきの首輪と同じ気配がするって。イチカが言ってる」

「俺はお前のオカルトに対してかなり信用を寄せ始めたぞ」

「それって褒めてる?」

「いいや自虐だ」


 とりあえず全員指輪を手に入れたらしい。レイラなんて、サラの不吉なお告げを気にするそぶりもなく、手の上で転がしている。


「それで、これから何するんですか?」


 キョーカが言った。


「グレイブスに近づく方法はなんとなく見当が付きましたが、そもそもどこにいるのかがわからなくては」

「いくら人に近いといっても奴はモンスターで、俺達の国にまで噂が流れてくるほどの有名人。おまけに人間の部下まで集めている。裏社会の人間からすれば、情報を掴むのはそう難しくないはずだ」

「裏社会って……そんな人どこに」

「いるだろちょうどいい奴が」


 俺は銃口を黒ずくめの男の頭に当てた。


「な?」

「いいように使いすぎだろ」

「文句ある?」

「いいえ」

「奴がいつどこに現れるか。一時間単位の具体的な情報を持ってこい。できなきゃ殺す」


 黒ずくめがしぶしぶうなずいた。


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