第12話

 人気のない路地裏で、二人の男が話していた。

 一人は黒づくめの格好で、帽子を深く被っており、顔は見えない。もう一人は浮浪者みたいな格好をした汚い男だ。


「近々、あんたんとこに宣戦布告して戦争を仕掛けるって噂だ。政府はなんでも……秘密兵器の──噂じゃ超巨大爆発呪文を開発したとか」

「そうか。詳しいことがわかったらまた連絡してくれ」


 黒づくめの男が浮浪者男に封筒を渡した。

 浮浪者は最初は溶けてボロボロの歯が見えるくらい笑っていたが、封筒の中を見てすぐに眉間に皺をよせた。


「おいこんだけか? 一週間持たないだろう!」

「噂、噂、噂。どれもこれも情報が不確かすぎる。むしろ多すぎるくらいだ」


 俺はその時点でブルーガンを構えて、あらかじめ仕掛けておいた重厚な装甲板に向かって撃つ。

 弾はそこで跳ねて、浮浪者のこめかみに深く突き刺さった。

 対象は即死。痛みに悲鳴を上げる間もなく倒れた。

 次に俺は、黒ずくめの男に向かって銃を連射しながら姿を見せた。弾はもちろん、全弾すれすれで外して。


「殺されたくなかったら言うことを聞いてもらうぞ」


 黒ずくめの男はニヤリと笑う。


「拳銃か……。古風な武器だな。たしかに殺傷能力はあるが、所詮素人用の武器だ。鍛え抜かれた体技、剣技、弓技、そして魔法に勝てない」

「それで?」

「ど素人が! テンペ──」


 呪文を言い終わるより早く、得意の早撃ちで右耳を貫通させた。

 黒ずくめの男は、耳を押さえながら悲鳴を上げて、膝から崩れ落ちた。


「ああぁぁあっ!」

「銃がどうしたって?」

「クソッ、ぶっ殺してるやる!」


 今度は先に防御呪文を張って、手を俺に向けた。


「テン──」


 俺はレッドガンを展開し、さっきよりも早く撃った。

 弾は防御壁を破り、黒ずくめの足の間に刺さった。

 黒ずくめは呪文を止め、短い悲鳴を上げた。


「気をつけろ。殺さない程度に痛めつける方法なら詳しい」

「わ、わかった……。言うことを聞く」

「よし。賢い選択だ。……ところでさっきから、何しようとしてたんだ?」

「て、テンペスタだ。嵐呪文。……ここら一帯を吹き飛ばす」

「えっ、吹き飛ばそうとしたのか? スパイのくせに。そんな目立つことを?」

「い、いや……」

「まあいいか。お前にはヴェルツレエリアへ案内してもらう。もちろん密入国ルートで、だ」

「そ、それは無理だ……」


 俺は黒ずくめの右足をかすめるようにブルーガンを撃った。


「ひっ! ……ほ、ほんとなんだ! ほんとに無理なんだって!」

「くだらない抵抗なら……」

「待て! 運び屋だ! 不定期の違法運び屋がいる……。場所は日時はランダムで俺も知らない」

「運び屋? 具体的にどうすんだ」

「テレポートだ。馬車での移動はバレやすいからな」

「だがテレポートは強力な反対呪文がかけられてると聞いたが」

「どんなものもそうだが、魔法にも穴がある。ウィークポイントだ。それは数時間おきに流動するが、やつらはエキスパートだ。その穴を見つけ出し、利用する」

「なるほどな……。だがお前も帰るつもりだったんだろ。どうやってその運び屋にたどり着く?」

「知ってる人間に金を払うしかない。これから会う約束をしている」

「オーケー。じゃあ情報仕入れてその運び屋のとこまで行け。俺は陰からお前を監視している。少しでも怪しい動きを見せたら殺す」

「わかった」


 とりあえずヴェルツレエリアに行くことはなんとかなりそうだ。

 まあ、この程度の仕事は少し世界が違うだけで腐るほどこなしてきたからな。つまずく方がどうかしてる。

 俺はその後も気配を消して黒ずくめの男の行動を監視した。いつでも殺せるように常に銃は構えている。

 数時間して、再びさっきと似たような路地裏で情報屋を名乗る男から日時と場所を聞く。

 俺は少し離れた廃ビルの上に立つ。

 話が終わり、金を払ったのを確認して、俺は情報屋の心臓を撃ち抜き、黒ずくめの男の前に降りた。


「で、どこで何時だって?」

「おおい! な、なぜ殺した」

「上の命令だ。わざわざ危険因子を見逃す必要はない。それよりどこで何時だ。次話をそらしたら左耳にもでっかいピアス穴あけてやる」

「待て待てわかってる。街の外。東門のそばにある見張り小屋の中だ。金で買収して警備員を装っているらしい」

「オーケー。時間は?」

「今から一時間後だ」


 ずいぶんと急な話だ。

 俺は無線を繋いで、ガイアに報告をする。


「今からから一時間後。東門見張り小屋からテレポート。ヴェルツレエリアへ侵入を開始する」

『ご苦労。一時間後着いたらまた連絡してくれ』

「はいはい」


 上司面しやがって。ムカつく野郎だ。

 今度はリーダーに無線を繋ぐ。


「準備はどうだ?」

『完璧です』

「そうか。じゃあ今から一時間後、東門に来てくれ」


 それから一時間は、目的地向かいながら俺も簡単に武器やスーツの手入れをすませて、レイラ達と合流した。

 レイラは合流するなり俺の荷物が入ったバックパックを放り投げた。


「おい。人の荷物はもう少し丁寧にあつかえ」

「はいはいすみませんでしたー」

「……チッ!」


見張り小屋に張り付いて、中の様子を確認して、「一……二の……三!」と合図を出してからいっせいに突入する。

 中にいるのは警備員の格好をした男一人だ。


「おいおいあんたらなんだ。急に入ってきて」

「ヴェルツレエリアに連れて行け」

「ヴェルツレエリア!? あんたら何もんだ? あそこは敵国だろう」

「お前が知る必要はない。もう一度言うぞ。俺達を連れて行け」

「お、俺が連れて行く? 何言ってんだあんた。俺は馬車なんか持ってねえし、持ってても敵国なんざ行きたくねえよ」

「お前の正体は知ってる。下手なごまかしはするな」

「……おかしいねえ。俺が運ぶのは一人だと聞いたが?」

「事情が変わった。つべこべ言わずにやれ」


 男が警備帽の奥でギロリと睨んだ。


「調子に乗るなよガキ。こっちはプロなんだ。事情が変わったで飲めるわけねえだろ」


 俺はブルーガンで右太ももを撃った。

 男は衝撃ですっころんで、「あああ!」と悲鳴を上げた。


「調子に乗るなよ。こっちはプロだ。黙って運べ、ぶち殺すぞ」

「だ、誰が……!」


 今度は左足に二発。さらにでかい悲鳴を上げた。

 俺はさらに、その撃った場所をぐりぐりと踏みつける。

 男は喉が裂けるくらいの勢いで悲鳴を出す」


「運べ」

「あああああああ! わがっだ……ッ! 運ぶ、はこぶがらやめでぐれ……ッ!」


 足を離し、銃をいつでも撃てるように構える。


「クソッ! 躊躇なく撃ちやがった! なんて野郎だ!」

「デッドブレッドだ」

「名前を聞いたわけじゃねえよ!」


 いくら待っても、男はもぞもぞ動くばかりで一向にテレポートしようとしない。


「……おい、なにやってる」

「足が痛くてそれどころじゃないんだよ!」

「無駄に抵抗するからだろ……。サラ治せるか?」


 サラはニカを耳元まで持ち上げて、うんうんとうなずいた。


「ニカはいけるって」

「だそうだ」

「頭おかしいのか!?」


 ニカを片手に持ったまま、サラは呪文を唱えた。


「ヒーリング」


 三つの風穴が一瞬で塞がっていく。

 息を整えながら立ち上がる。


「お前ら相当イカれてるぜ」

「よく言われるよ。早くしろ。……もし、変なとこに飛ばしたらほんとに殺すからな」

「今さら抵抗する気力なんかあるか。……テレポート!」


 体が魔方陣に包まれて、気が付くと景色が変わっていた。

 どこかの廃倉庫のような場所だ。俺はすぐに無線を繋げた。もちろん、銃口は運び屋の男に突き付けたままだ。


「とりあえず移動は成功した。どうだ?」

『たしかに。そこはヴェルツレエリアの北、アコアのスラム街で間違いない』

「わかった。また連絡する」

「へへへっ、運がいいぜあんたら」


 男が言った。


「何者か知らんが密入国にこれほど条件のいい場所はそうそうない」

「なるほど。ご苦労だった」


 俺は男の脳を撃って殺した。

 黒ずくめが悲鳴を上げる。


「お前はポンポン人を殺すな!」

「全くその通りです」


 キョーカも一緒になって抗議する。


「さっきも言ったが、所詮は危険因子。生かしておく理由がない。それより、お前はどうしようか。ここまで来た以上すでに用済みなんだけどな」


 黒ずくめは必死になって首を横に振る。


「わわわ、わかった。今後スパイ活動はしない! 本当だ。カフェでも開いてのんびり暮らす。見たこと聞いたことは誰にも話さない。殺さないでくれ頼む」

「信用できんな」

「家族がいるんだ。妻と娘。だから俺はまだ死ぬわけにはいかない。わかってくれ!」

「じゃあ、これから俺の言いなりになって動け。俺達の目的が無事達成されたら、そのときは見逃してやる」

「わかった。死ぬよりましだ」

「よし。じゃあ、この後の流れを説明するぞ。全員集まれ」


 小さな円を作って座る。


「東にあるマルチという街に行く。そこにグレイブスの部下が大勢いる。ガイアの話じゃ、人間のみで組織されてると聞く。ただのテロ集団だ。あいにくターゲット本人がいる可能性は極めて低いが、やつに近ずくための手がかりは得られる。詳しいことは後で無線で指示が出る。わかったか?」


 五人ともうなずいた。

 グレイブス捕獲作戦開始。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る