第11話
「おい!」
俺は今でくつろいでいる、キョーカを除いた三人に怒鳴った。
「昨日食器洗ったやつは誰だ?」
「私だけど」
レイラがめんどくさそうに手を上げた。そのすっとぼけた態度がさらに俺をイライラさせる。
俺はレイラに目の前に立った。
「な、なによ……」
「洗い残し。皿の裏はべたべたしてるし、茶碗は固まった米のカスが付いてる」
「はあ? そんな細かいこと知らないわよ」
「触ったらわかる知らないわけないだろう。どうせ適当に洗ったんだろう」
「はいはいそうですけど。ていうか、表が綺麗ならそれでいいし、お米なんてどうせまた入れるんだから一緒よ」
「不潔なんだよ。この調子じゃ表だって綺麗かもわからねえ」
「ぐちぐちぐちぐち……。女々しいやつね」
「いいやこれは世界共通のマナーだ。このがさつが」
「カッチーン。じゃあいいわ、私が今から洗ってあげる。ほらかしなさい」
「いいやもういい。お前に任せるとろくなことがない。だいたいこないだも皿割ってたろうが」
「やれっつったりやるなつったっり、あんたの舌は何枚あんだこのやろう」
「見たこともねえくせに低次元なものまねしてんじゃねえよ喧嘩売ってんのか」
「上等じゃない、やったるわよ。表出なさいな」
「いいだろう。今日という今日はな、ギャフンと言わせてやるよ」
「――言わせてなくて結構です!」
一体いつからいたのか。少し前に出かけたキョーカがリビングのドアの前で腕を組んで俺達を睨みつけていた。
「全くあなた達は……。顔を合わせれば喧嘩ばかり。子供じゃないんですから」
「「…………」」
「とにかく! 新しいクエストが来ました。作戦会議です」
◇◇◇
「簡単に言えば、第五魔王の城を突き止め、潜入するのが今回のクエストです」
「珍しくまっとうだな」
キマイラの件以来、理不尽でしょうもない、まさしく雑用のようなクエストばかり回されていたが、魔王と戦えなんて、危険は伴うにしてももっとも冒険者らしい。
「突き止めってことは、魔王の居場所は分かってないのか?」
「うん」
サラが答えた。
「一から七まで、魔王の居場所はおろか名前すらわからないこともあるよ。少し前に来たディードも、第二魔王軍幹部の中じゃ下っ端で、名前がわかってる珍しい部類」
「へー、なるほどな」
たしかに。そうでもなきゃ、レイラなんて一発でムショ行きだよな。
「じゃあ、今までもわかってなかったなら、なんで急に? というかどうやって突き止める?」
「理由は二つです。一つは、その第五魔王が近々この国の王都に大規模テロを起こすと情報が入ったこと。もう一つは、幹部の居場所が一人、わかったこと」
「つまりそいつをとっ捕まえて、情報を聞き出し、テロよりも早く第五魔王を倒せってことか。だがやっぱわかんねえな。魔王襲撃も、情報を掴むのも、全部ガイアがやりゃいいじゃねえか。相当強いんだろう?」
「もちろん魔王城襲撃は参加するし、戦うのは自分と言っていましたが、事情があって幹部を捕まえるのは難しいと……」
「事情?」
「敵国なんです。その幹部がいるの」
キョーカが一枚の写真を取り出して置いた。
比較的大柄で、はげたおっさんの写真だ。
「名前はグレイブス。オークです」
「オーク? ただのはげたおっさんだろ」
「いや」
レイラが言った。
「きっと、正確にはハーフよ。でしょ?」
キョーカがうなずく。
「まあ、オークって人を襲って子孫繁栄するから、ハーフってのは別に珍しくないんだけどね。けどハーフにはごく稀に、限りなく人に近い姿で生まれてくることがあるの」
「異種間交配による突然変異ってことか……」
「人型に生まれたハーフは普通のオークより小柄だけど、パワーも知能も、魔力もずっと高い。それは人に近ければ近いほどね。こいつの場合、ちょっと体が大きめなこととはげてること以外は完璧人間だからかなり強いと思う」
「いや、大柄もはげも人間だろ」
「と、とにかく」
キョーカが言った。
「このグレイブスは敵国にいます。だからガイアは行けないと。私達は情報を集め、それを報告するのが仕事です」
「ようするに捨て駒かよ」
俺達に散々命を懸けさせて、最後の美味しい魔王退治という名誉は貰っていくつもりらしい。
あの野郎。絶対キマイラ逃がしたこと根に持ってやがる。
バカげてるぜ。
「それ、断れないのか?」
「冒険者職の剥奪と、借金……」
「はあ?」
「私以外のみんなにはそれぞれ、器物損害による多額の賠償金があるとか」
「脅しかよ」
ていうか、
「少し待て」
俺は庭に出て、キョーカが近くにいないことを確認してから、黒服の男達を呼んだ。
「話がある。出てきてくれ」
ガサッと音を立てて、茂みからリーダーっぽい奴が出てきた。
「キョーカはこの国の王女なんだろ。お忍びだろうが、敵国になんか行っていいのか?」
「ダメだろうな。バレたら戦争になる」
「じゃああいつだけでも断るしかない」
「我々も散々止めたが、お嬢様は聞き入れてくださらなかった。パーティーのリーダーとして、君らだけに危険なことをさせるわけにはいかないと」
普通なら、命の危機から解放されると知れば、泣いて喜ぶはずなんだがな。
「大したリーダーだよ」
「わかってると思うが、今回我々は同行できない。バレる危険性が増すだけだ」
「つまり、あいつの護衛兼便利な駒は抜きか」
「そういうことだ。そこで君に頼みがある」
「頼み?」
「ああ。この際多少の傷には目をつぶる。だがその代わり、なんとしても命だけは守り抜け。たとえクエストが失敗しようと、命だけは守れ。無事帰還できたなら、特別報酬は出させてもらう」
「……そうだな。わかってる。仮にも同じパーティーのメンバーだ。死なれたら後味が悪い」
「助かる」
まあいい。俺は殺し屋。猛獣のペット探しよりも、標的の暗殺の方がずっと得意だ。
そうして三日後、作戦は始まった。
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