第8話

「ふざけんな!」


 俺は近くの瓦礫を蹴り飛ばした。


「ちょっと落ち着いて」


 レイアが俺をなだめようとするが、はっきり言って無駄。


「落ち着いてられるか! というか、最初から気づくべきだった。なんだこのパーティーは!?」

「何が不満なの?」

「どこもかしこも! 何が史上最年少の天才少女。ところ構わず銃火器ぶっ放すクソガキだ! 何考えてるかわからねぇイカれ女! 唯一のソードマスター? そいつはどこにいる!? カリスマ性の持ち主で、キングヒーロー! 権力で贔屓されただけのど素人じゃねぇか!! おまけに……」


 俺はレイラを見て言った。


「肝心なときに役に立たない自称魔王!」

「じしょ……っ!? ……いいじゃない別に。こんな美少女達に囲まれたハーレムパーティーなんだから」

「そうだな。クソガキにイカれ女に王女に魔王! いいか、良い女ならいくらでも見てきたが、そいつら必ず引く手数多だった。俺みたいなクズに最初から押し付けられてたやつはいなかったね」

「わかったから落ち着いて」

「落ち着いてるよ!」


 サラがトコトコ俺のそばに歩いてきた。


「ねえ何怒ってんの?」

「……なんでもない。それよりキョーカは?」

「今起きた」

「そうかわかった」


 俺はキョーカとルーシーの元まで動いた。


「調子はどうだリーダー」

「もう大丈夫です」

「そうか。ところで一つ言っておくことがある」

「なんですか?」

「あんたは弱い。ステータスも、対人訓練も、実践じゃクソの役にも立たない」

「そ、そうなんですか……。ショックですけどわかりました」

「よし!」


 俺は全員を俺の目の前に座るように集めた。


「自分達のできること、できないこと。なんでもいい。俺に隠してることがあるなら今全部話してくれ」


 誰一人微動だにしない。

 なるほどな……。とりあえず、半信半疑でいるか。


「わかった。じゃあ、さっきの失敗を元に、次は俺の立てた作戦で動いてもらう」

「もっかいやる気なの?」

「当たり前だ。俺は失敗は許さない。まずサラ。お前にはもう一度キマイラを引きずり出してもらう」


 サラが首をかしげる。


「でもさっきめっちゃ怒ってたじゃん」

「大丈夫だ。来ると分かれば対処できる。ただし、次の呪文は俺じゃなくキョーカにかけろ」

「えっ私?」


 キョーカが言った。


「あなたではダメな理由は?」

「俺はキマイラとタイマンで戦いたい。他のモンスターまで呼び寄せるのは不都合だ。俺は四人と少し離れたところで待機してるから、キョーカはキマイラが出てきたら全力で俺のところまで逃げてこい。まっすぐ前だけ見るんだ。いいか? 絶対に横や後ろを見るな」

「ですが正直……さっきのもあってちょっと不安なのですが」

「大丈夫。もしピンチになっても、みんながお前を助けてくれる。それこそ、命懸けで。お前だけは絶対に死なない。頼むよリーダー。キョーカにしかできない」


 キョーカの顔が見る見るうちに明るくなった。


「ま、まかせなさい! 任務は絶対に遂行します」

「いいぞ。残りはレイラとサイキョーショージョだが、二人はとにかく、キョーカを追って俺のところに行こうとするモンスターを迎撃してほしい。サラはその援護だ」


 ルーシーが手を上げた。


「じゃあまた銃撃っていいの?」

「だめだ。剣で騎士らしく戦え」

「私戦えないわよ」


 レイラが言った。


「地味な技なんて覚えたくないし」

「ああわかってる。強化版じゃないなら、今度は好きに撃ってくれて構わない」

「ほんと!? でも火事は?」

「そのことも大丈夫だ。きっと何とかしてくれる」

「やった! じゃんじゃん燃やしちゃうわ! 環境破壊なんてクソ食らえよ!」

「いいかお前ら」


 俺は全員に向けて言う。


「失敗は死と同じだ」


 サラが首をかしげた。


「でもさっき失敗したよ」

「黙れ。……いいか? 決して油断するな。気の抜けるときほど危険は迫っている」


 ルーシーが手を上げた。


「ねえそれって頭洗ってるときも?」

「その通りだ」

「えー嘘だよ」

「嘘じゃない。プロは頭あるときも寝るときも、クソするときだって油断しない。……とにかく! 今回で言えばキマイラを依頼人に渡すその瞬間まで油断するな。そして最後に一番大切なことだ。とにかく、自分に自信を持て。いいか? 自分のやれることを、最大限やって、目的を達成するんだ」


 キョーカが両手をグッとして、何度もうなずいた。


「なるほど……! 人もモンスターも、結局は私の意識の問題ですよね。次は全力で立ち向かってみるとします」

「訂正だキョーカ。お前は自信を持つな。……じゃあ行くぞ」


 扉に向かいかけたところで、レイラが急に呼び止める。


「ちょっと待って!」

「……なんだ」

「今から行くの? お腹すいたんだけど。休憩するわよ」

「バカが。もうすぐ日が落ち始める。ただでさえ光が通らないあの森だ。少しでも空の明かりが消えたら闇の魔境だ。危険度は何倍にも増幅するぞ」


 レイラはお腹をさすりながらしぶしぶうなずいた。


「…わかったわよ」

「じゃあ行くぞ!」


 かくして、二回目のクエストチャレンジのため、俺達は再び森の中へと足を踏み入れた。

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