第9話
再びサラの案内で森に足を踏み入れる。
なんでも居場所が大きく変わってるらしく、さっきとはまるで違う道を進んでいる。
もっとも、この根暗女は純粋でイカれやろうで、さっきキマイラと遭遇したのはたまたまってオチじゃなければ、の話だけどな。
「ねえねえ」
道中、ルーシーが声をかけてくる。
「なんだ」
「今回は印付けないの?」
たしかに、キマイラを捕まえて帰る頃には真っ暗になってるだろう。迷う確率もかなり高くなるし、さっきみたく木に傷をつけた方がいい、と思うだろうな。
「いいんだよ」
「どーして?」
「送ってくれるやつがいる」
「え?」
「お前は気にすんな」
「はーい」
そうこう話してるうちに、かなり深いところまで歩いて、サラの足が止まった。
「着いたのか? キマイラはいないが」
「うん、これが限界」
「わかった。じゃあ作戦通りにいくぞ。俺は百メートル東で待機。キョーカはそこに連れてこい。他の三人はここで他モンスターの足止め。作戦は十秒後開始だ。……行くぞ!」
後ろでキョーカがモンスター呼び寄せ呪文をかけられているのを感じながら、俺は作戦通り待機場所まで走り、身を潜めた。木々が生い茂ってるが、最低限戦えるくらいのスペースはある。捕まえる自信はある。あとはキョーカが無事にここまでたどりつけたら作戦は成功だ。
数秒経って、さっきの場所で魔法を撃つ音が聞こえる。その次は剣で切り裂く音。
そして、こちらに走る足音と、ライオンのうなり声。
遠くにキマイラに追われるキョーカが見える。
「こっちだ!」
キョーカは悲鳴を上げる余裕もなく走り続ける。ただ、俺の言う通りにまっすぐ前だけを見て。
モンスターの気配が一気に高まった。キョーカにかけられた呪文にあてられて、お呼びでないやつらまでもが顔を出す。
そして横からいっせいにモンスター達が呼び出した。完全に囲まれている。
キョーカの顔が恐怖で歪み、足が一瞬止まった。
「まっすぐだ! 俺だけを見て走れ」
キョーカはこくりとうなずいて、さっきよりもさらに早く走った。
周りのモンスターには目もくれず。
「……チッ!」
どこかで、舌打ちをする声が聞こえた。
ふんっ。俺はおもりじゃねえんだ。守りたいならお前らが勝手に守れ。
オオカミがキョーカへ飛び出した。腰に嚙みつこうとしたその瞬間、突如雷に打たれて死んだ。
それを合図に、森の中からキョーカの両サイドを挟むように黒服の男たちが現れて、キマイラを除くモンスター達を次々と撃退していく。
だがもちろん、無我夢中で前だけを見て走るキョーカには周りのことなんて一切気づかない。
そして、キョーカが無事俺の元へ着いたと同時に黒服達は消えた。
「よくやった。たいしたものだ」
「はあ……はあ……、あたりまえです」
後を追うキマイラが俺達二人を丸呑みしてしまいそうなほど大きな口をあけて空中へ飛んだ。
「どけキョーカ」
奴の牙が届く前に、ショットアイズ3.0で吹き飛ばした。
「よし。じゃあもう一度三人の場所へ戻れ。もちろんまっすぐ前だけ見てな」
「ちょ、ちょっと……。ここまで走ってきて……」
「いいから行け。お前にここにいられると余計なやつまでよってきて邪魔だ」
「な……! 失礼ですね、一体誰に命令を!」
「ただの冒険者だろ、早く行け! お前にしか頼めない重要な役目だ」
「そ、そうですか……。わかりました」
全く扱いやすいやつだ。まんざらでもない顔して、さっき走った道を逆走し始めた。
キマイラは首を振りながら立ち上がって、キョーカに襲い掛かる。
右腕の腕輪についた取っ手を右に回して、弓(
頑強な毛と皮膚のせいで刺さりこそしないが、前右足にかすり傷くらいは残せた。
キョーカを追うのをやめて、俺を睨む。
「よーしそうだ。こっちだペコ」
今度は取っ手を左に回してモーニングスターのジャックメテオを作る。
ピンポン玉サイズから小さめのバランスボールまで。鎖を握る強さと回すスピードで大きさが変わる。最大サイズで数回ぶん殴るが、ぶちぎれたキマイラがハンマーを嚙み砕いた。
「げっ、まじか」
ビッグスターで突進を防ぎ、パワーレッグで蹴り飛ばす。
GGGで傷つけた右前足をエースで連射するが、怒るばかりであまり効果はないらしい。再び突進をかましてきて、なんとか横に飛びのいた。
再びショットアイズ3.0で攻撃する。ノックバックはいくらでもできるが、相変わらずダメージはなさそうだ。
だが、とうとうまぶたを半分閉じてふらつき始めた。ようやく矢に塗った超強力麻酔が回ってきたらしい。
俺は残り二つのアタッチメント取り付け、ショットアイズ5.0に変形させる。
「おやすみの時間だ」
およそを十メートルは吹き飛んで、キマイラはそのまま気絶した。
「ふーっ。問題はどうやって運ぶかだな……」
とりあえず持ってきたロープでぐるぐる巻きにするが、重すぎて持ち運びはまず不可能。
となれば、引きずるしかない……が、一応誰かのペットであるこいつをそんな乱暴に扱っていいものか。
森の中で、まだ俺を監視する人間の気配がかすかに感じる。
「おい聞こえてるだろう! とりあえずこいつを屋敷まで運んどいてくれ」
ガサゴソッと音がして、黒服が一人俺の目の前に飛び降りた。
「貴様……俺達をなんだと思ってる」
「悪い悪い。だがこのままじゃクエスト失敗だぞ? お前達の大切な姫様もさぞショックだろうな」
「クソが!」
「ああその通りだ。よろしくな」
俺はロープの持ち手を黒服に渡して、レイラたちの元へ向かった。
◇◇◇
「サンダーボルト!」
現場は雷が降り注ぎ炎が舞う地獄のようになっていた。
サラもキョーカも傷だらけで、ルーシーに至っては鬼みたいなゆつに食われそうになっていた。
レッドガンを展開して眉間を撃ち抜いて、倒れるルーシーを捕まえる。
「おい大丈夫か」
「死ぬかと思った。ありがとお兄ちゃん!」
お兄ちゃん、は少し気になったが、こいつもまだガキだ。胸に顔を押し付けてくるルーシーを、俺はそっと抱いた。
だがそれを見て、レイラが顔をゆがめた。
「うわ、ロリコン」
「うるさいぞ性悪。それよりなんだ、お前がいてこのありさまは」
「だって数が多すぎるし、守りながらの戦いってなんか慣れないんだもん」
「……まあいい。それより、みんな俺のそばに集まれ」
敵を撃退しながら、全員が一か所に集まると、俺はブルーガンでキョーカを撃った。一撃で気を失って倒れる。
「何してんのあんた!」
「落ち着け。ただの麻酔銃だ。こうでもしなきゃ送ってくれないからな」
俺は一番気配を感じる方を見て言った。
「なあ、さっきみたくテレポートしてくれ。聞いてるんだろ!?」
返事がない。
じゃあ仕方ないか……。
レッドガンを展開して、仰向けに倒れているキョーカの顔の横を五回撃った。そして六発目は、眉間に正確に狙いを定める。
「正真正銘実弾だ。次は外さない」
「まてまてまて! わかった運ぶ!」
黒服が大慌てで姿を現す。
「いかれてるぜお前」
「よく言われる」
「……チッ。ムカつくやつだ。全員手を繋いだか?」
「ああ」
「テレポート!」
相変わらず便利な魔法だ。俺達は森の中から一瞬で屋敷の中に移動していた。
庭には縛られたキマイラが置いてある。
とりあえずこれで、任務成功だ。
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