第6話

 瓦礫を足でどかして、なんとか五人が座れそうなスペースを作る。

 レイラが周りを見渡しながら言った。


「ふんっ、素敵なお部屋だこと」

「同感だ」


 赤髪の美女がバッグから高そうなお茶とカップを取り出した。


「みなさんも飲みますか?」


 元死体女が真っ先にうなずく。


「飲む飲む。寝起きって喉乾くから」


 俺達は円を組むように座って、美女の用意した緑茶で一息つく。そうして、それぞれの自己紹介が始まった。


「俺はクロサワ・カイ。冒険者ネームはデッドブレッド。職業はアークスナイパーだ。よろしく」


 レイラは腕を組んで胸を張った。


「で、私はその上司のレイラよ! 職業はワイズクイーン」

「おいちょっと待て。誰の上司だって?」

「あなたのことよ。あなたは私の部下」

「誰がだアホ」

「はあ? そういう契約だったでしょ」

「捏造すんな。大体、お前に上司なんて務まるかよ」

「当たり前じゃない。だって私文系だもん」

「うわ出たよ。無能上司の特徴」

「バカじゃない? 文系はコミュ力は高いし、経営に強いし、人を回す才能があるの。あなたみたいな一生出世できない理系が嫉妬してるだけ」

「バカはお前だ。ジョブズは理系ですけど?」

「それは偏見ね。売れたのは彼のスピーチ能力があってはじめてだし、プログラミングを打てないのは有名な話」

「アインシュタイン、ガリレオ、ニュートン。名だたる偉人の多くが理系だ」

「彼らがいつ国を動かしたかしら? 民衆がついていくのはいつも文系」

「そして民衆に殺されるのもな」

「へー喧嘩売ってんの?」

「ああそうだぜ。表出ろ体言してやる」

「上等よ。ボコボコにしてやるわ」

「やめなさい二人とも!」


 立ち上がりかけた俺達の肩を、美女が無理やり押さえ込む。


「何をくだらないことで喧嘩してるんですか」

「あはは」


 幽霊女が笑って言った。


「めっちゃ仲良いね二人とも」

「「仲良くない!」」

「はいはーい!」


 ロリっこが手を上げた。


「次私ね。私はエナ・ルーシー。アーマーナイトで、冒険者ネームはサイキョーショージョ!」

「最高のネーミングセンスだな」

「うんっ!」


 俺の皮肉に気づきもしないでバカ正直にうなずきやがった。

 俺は隣に座っている美女を見る。美女はお手上げって感じで両手を上げた。


「じゃあ次は私ね」


 幽霊女が言った。


「アルマード・サラ。冒険者ネームもサラ。職業はダークプリースト」


 サラは懐から四体のクマ人形を取り出した。


「赤いリボンのこの子がイチカ。みんなのお姉さんでしっかり者なの。青のリボンがニカで、恥ずかしがり屋。黄色のリボンがサンカで、すごく凶暴」

「おいちょっと待て。……なんだって?」

「だから黄色いリボン付けてるこの子が」

「いやそうじゃなくて。その……名前があるのか? そいつら」

「そりゃ、なんにだって名前はあるでしょ?」


 ルーシーは目を輝かせて、レイアは思いっきり引いた顔。美女は眉間を押さえて頭を振っている。


「でね。最後の白いリボンをつけた子がシロウ」

「男なのか?」

「体はね。心は四人の中では一番女の子っぽいよ」


 全部同じ人形で、リボン以外の違いがわからない。

 サラはシロウを耳に近づけた。


「うんうん、オーケー」

「おい待てしゃべるのか!?」

「当たり前じゃん」


 ……当たり前?

 サラがシロウの手を俺に伸ばした。


「あなたのこと気に入ったみたい。よろしくだって」

「…………よろしく」


 オカマのクマ人形と握手したのは初めての経験だ。

 サラは満足そうに、人形達を横に並べた。


「イカれてる……」


 美女がおほんっと咳払いして、異様な空気を吹き飛ばした。


「最後は私ですね。職業はキングヒーロー。名前及び、冒険者ネームはキョーカです。一応勇者ということで、このパーティーのリーダーです。よろしく」


 なるほど。性悪女、ロリっこ、根暗女。一体どんなパーティーかと思ったが、キョーカは俺を除けば唯一の常識人らしい。最上級職だし、実力もかなり高いだろう。

 顔もスタイルも性格もかなり俺好みだし、このゴミ処理パーティーも一応住む家はもらえたわけだから、案外ラッキーかもしれない。


「ほんとは屋敷の掃除、といきたいところなんですが……。綺麗にするにもお金がかかるし、今日中にクリアしなければいけないクエストがあるので」

「つまり、いまから早速お仕事開始ってことか。内容は?」

「国じゃなくて、個人からの依頼です。その分報酬も低いらしいです」


 キョーカは依頼書を取り出した。


「えー『ペットが逃げ出したので捕まえてください。ペットはキマイラの雄。ペコって名前を書いた首輪をつけています。報酬は五万ゴールド』ですって」

「少なすぎる」


 プロ時代じゃまずありえなかった数字だ。


「キマイラってのは強いのか?」


 四人は顔を見合わせて首を振った。


「戦ったことないからわからない」

「なるほどな……。まあとりあえずやるしかないか。くわしい情報はないのか?」

「ロックスから出て、南側にある森に逃げたとか」

「情報もお粗末か」


 まあ仕方ない。ルーシーとサラがどうかは知らないが、レイラはまがいなりにも魔王だし、キョーカはチート級らしい。見つけるのに多少手間がかかろうが、クリアは簡単だろう。


「作戦はどうする? 見つけ次第確保でいいとして、問題は見つけるまで。どうやって探る」

「それなら私に任せて」


 サラが手を上げた。


「どうするつもりだ?」

「声を聴くから。会ったことないけど、多分わかる」

「ああ……そう」


 不安要素はあるが、まあほかに手がないから仕方ない。


「よし!」


 キョーカが立ち上がった。その目はメラメラと燃えて、やる気に満ち溢れている。


「ともかく、これが私達の初クエストです! 頑張っていきましょう!」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る