第4話

 ディード襲撃から三日後。ギルドにて、俺達は処分を下されることになった。


「さいわい、モンスター襲撃に際して町の者は避難しており、奇跡的にも死人は出なかったが、防壁および町の破壊。けが人多数。普通なら、冒険者資格の剝奪だ」


 仕事のできる美人検察って感じの、レベッカが厳しい表情でそう告げた。


「私は悪くないわ!」


 レイラが早速裏切ってきた。


「全部こいつ一人でやったんです!」


 そうは行くか性悪女。


「いえいえ。たしかに最後の実行犯は俺ですが、元はと言えばこいつが喧嘩をふっかけてきて」

「はあ? 私がいつそんなことしたのよ」

「記憶喪失かな君は。子供みたいにわーわー騒ぎ立てて、俺を煽ったのはお前だろうが」

「私のどこが子供なのよ!」

「じゃあお前ディズニーとジブリどっちが好きなんだ?」

「ディズニーだけど」

「ほら見ろ子供だ!」

「バッカじゃないの。ディズニーはランドもシーもあるんだから好きになるのは当たり前でしょ」

「ふんっ、いい歳してディズニーでキャッキャッしてそうだもんな」

「何が悪いの? ディズニーは大人のテーマパークですけど」

「残念だったな。大人はUSJだ」

「出たアメコミ! あんなの特撮と変わらないじゃない」

「特撮好きで何が悪いんだよ。サンデーモーニングはスーパーヒーロータイムであっぱれですが?」

「喝に決まってるでしょ。特撮の方がね、よっぽど子供向け作品です」

「おいおいおい。あれはな、大人でも楽しめるように作られてるんだ」

「いいえ。楽しめるかどうかと、あれが子供向け作品かどうかは、全く無関係です。誰がどんだけ言おうと、子供向けよ!」

「お前だってプリキュア好きだろ」

「私はセーラームーン派です!」

「どっちも一緒だろ!」

「あんたそれ本気で言ってんなら……」

「──いい加減しなさい!!」


 レベッカが近くにあった机を殴りながら、耳を塞ぐほどの大声で怒鳴った。


「さっきからわけのわからないことをぺちゃくちゃぺちゃくちゃ……。自分達の立場がわかっていないんですか? どっちも子供だよ!!」

「………………」

「………………」


 レベッカはごほんっと咳払いすると、ため息混じりに言った。


「さっきも言った通り、本来なら冒険者資格を剥奪し、犯罪者として取り締まるところでしたが、あるお方の取り無しで、特別処置を取ることになりました」

「ある方……?」


 俺が首を傾げたとき、後ろのドアがバンッと開いた。

 見物人の男達は「おぉ……」なんて、声にならない声を上げて、女達はキャーキャー黄色い声を上げている。

 まるでお偉いさんかのように、見物人達が道を開けて、真っ直ぐ俺達の元へ歩いてくる。

 黒色の髪を無造作に伸ばしていて、ニコニコと爽やかな笑みを浮かべている。

 両隣には、女優みたいな美少女二人が取り巻きみたいに並んで歩いている。

 ふとレベッカを見ると、顔がほんのり赤くなって、もじもじしながら俯いていた。


「あんた、誰?」

「おい、失礼だぞ!」


 俺の言い方が気に食わなかったのか、レベッカと取り巻き二人が同時に噛みついた。

 だが、当の本人は笑って三人をなだめている。


「僕は木元きもと がい。もっとも、みんなには冒険者ネームのガイア、の方が知られてるけどね」


 ガイアは俺に手を伸ばす。


「よろしくね。デッドブレッド。いや……黒澤玲也くん?」

「ああ、よろしく」


 俺は手を握り返す。

 手が離れると、ガイア達はレベッカの隣に立った。

 俺はレイラに耳打ちする。


「おい、まさかあいつ……」

「ええそうよ。私もはじめて見たけど、あなたと同じ転生者。もっとも、魔王じゃなく神に転生させられた男だけどね」

「なるほどな」

「ねえ、それより……」

「なんだ?」

「あの人すっごいイケメンじゃない?」

「奇遇だな、俺もそう思ってたところだ。そして今こうも思った。性悪女じゃレベルが違いすぎて無理だ。やめとけ」

「あっ、もしかして嫉妬してんの? 残念でした、私はあなたに興味なんてこれっぽっちもありませんー」


 俺は一瞬のうちに、誰にもバレないようレッドガンをレイラに突き付けた。


「もういっぺん言ってみろマジで殺すぞ」

「ぎ、ギブギブ。冗談だから……」


 本当に、心の底からムカつく女だ。ぶっ殺して雑巾にでもしてやりたい。

 「しゃあっ!」と威嚇だけして、しぶしぶ銃を戻した。


「特別処置ってなんですか?」

「うん。それは僕が答えよう」


 ガイアが一歩前に出た。


「惨状を見たよ。たしかに、後先考えない攻撃だったと思う。けど、それよりも評価するべきはあの破壊力だよ!」


 俺はレイラにドヤ顔してやった。


「君達には、好きなように暴れて、気兼ねなくモンスターと戦える特別な環境が必要だと思った。そこで、兼ねてから考えた計画を実行することにした。ずばり、特別クエスト対策処理パーティーにを設立した。君達にはそれに入ってもらう」

「なにそれ?」

「簡単に言えば、ギルドで対処できなかった、期限切れ間近の高難易度のクエストに対してのみ活動するパーティーさ」

「なるほどなるほどお」


 レイアが満足にうなずいて言った。


「この私にふさわしいところね」

「そのとおり。君達二人にふさわしい場所、そしてその場所にふさわしい精鋭達を用意した」

「ん? 私達二人のパーティーじゃないってこと?」

「そういうこと。君達の他にあと四人いる」


 ガイアは指をまず4本立てて、次に指を一本折りながら言った。


「まずは、史上最年少で中級騎士であるアーマーナイトになった天才」


 二本目を折る。


「二人目は、この街にいる冒険者唯一の上級剣士、ソードマスター」


 三本目。


「三人目は第六感の持ち主。上級司祭。ダークプリースト」


 そして最後の一本。


「最後は、このパーティーのリーダーを務める。類稀なるカリスマ性で、人を自然と従わせる最上級冒険者職。キングヒーロー。この街では、僕含め三人しかいない」

「ちょ、ちょっと待って! パーティーのリーダー? それ私じゃないの!?」

「まあ……はい」

「いや! いやいやなし!」

「まあまあ落ち着いて。今は不満かもしれませんが、実際に会えば気が変わりますよ」

「そんなのわかんないじゃない。私、人の下につくの大っ嫌いなの。だから……!」

「おいその辺にしとけ」


 俺は熱くなるレイラの首根っこを掴んだ。


「何よ、あんたはいいわけ?」

「俺は元より、リーダーなんてめんどくさい仕事するつもりはない」


 それに、この性悪女よりいくらかマシだろう。


「でも私はまお──!」

「それに! 俺達には選択肢がない。このままむしょにぶち込まれて借金地獄か、少し我慢してリーダーの座を譲るか。どっちがいいか考えろ」

「…………わかった」

「どうやら話は決まったようだね」


 ガイアは俺達二人に鍵を投げた。


「君達パーティーの家の鍵だ。結構広くて、屋敷みたいだよ。庭もあるし、なんでもできる」

「へえ、そんなことまでわざわざどうも」

「うん。他のメンバーもじきに来ると思うから、期待してなよ」


 それから俺達は、ガイアに渡された地図を頼りに、その屋敷とやらに向かった。

 街中から少し外れた、田舎っぽいところにあるらしい。

 屋敷に向かいながら、レイラは言った。


「まあリーダーじゃないのは残念だけど、屋敷はもらえるし、メンバーは精鋭達らしいし、特別なパーティーだし。考えてみれば悪くないわね」


 良い、じゃなくて悪くない。ってのがこいつの性格をよく表してる。

 そして本気で気付いてないあたり、バカだ。


「あの爽やかイケメンの言うことを間にうけるな」

「なにそれ? どういうこと?」

「あのガイアとかいう奴、相当強いんだろ?」


 レイラがうなずいた。


「まあ、転生者はあなた以外みんなチートを持ってるしね。それでも彼は、特に強いって噂で聞いたわ。何でも、ステータスはすでにオールAとかなんとか。さすがに尾ひれがついただけだと思うけど。それが?」

「あのな、そんだけ強いやつがいて対処できないクエストってなんだよ。こないだの突然の襲撃でもない限り、高難易度クエストなんて全部あいつが何とかするだろ。逆に、あいつでも手が付けらんねー程のもんなら、俺達だって無理じゃねえか」

「た、たしかに……! あれ? じゃあ何のために」

「要するに、ただのゴミ処理だよ。誰もクリアできないクエストじゃなくて、誰も挑戦しないクエスト。手間と報酬があってないとか、そういう人に避けられてどうしようもないゴミクエストを処理するだけのパーティー」

「なっ……! 何それ超ムカつく! なんで断らなかったのよ!」

「だから言ったろ。俺達に選択肢はない。むしょで借金地獄よりまし!」

「そんなあ……」


 レイラはがっくりと肩を落とした。


「どーせ、その屋敷とやらも持て余して処分に困った廃墟か何かを押し付けただけだと思うぜ。………………ほら着いた」


 たしかに、サイズ的にはアパート一つ分と変わりない豪邸だ。

 だが、庭から生えた草や木は伸びきって、屋敷にまで絡みついている。

 家本体も所々にひびやシミがあって、全体的に汚い灰色。窓ガラスは半分以上が割れていて、破片が飛び散っている。

 せっかくの鉄格子もぶっ壊れて機能してない。

 レイラがうつろな目をして言った。


「はは、すてきなお家ね……」

「ああ、最悪だよ」



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