第3話

 ロックスを囲う、対モンスター防壁の奥で、およそ百のヴァンパイア軍団が進軍していた。

 それを迎え撃つように、冒険者たちが続々と外に並んでいた。

 俺はと言えば、ロックスの南側にある時計台の一番上に上っていた。


「ちょっと、あなたも戦いに行きなさいよ」

「黙ってみてろ」


 整備を終わらせて、この位置からライフルを構えた。


「ちょ、ここから狙うわけ? 六百メートルは離れてるわよ」

「冒険者風に言うと、俺の射撃の力はAなんだろ。元の世界でもこの距離なら俺は蟻の眉間にだってぶち込める」

「言っとくけど、射撃の威力はその人の魔力に比例するわ。ランクCじゃたかが知れてるわよ」

「問題ない」


 集団の真ん中で、一人だけ赤いマントと金色の首輪をしているあいつが、幹部のディードだろう。

 狙いはディード以外。とりあえず目に入った小太りのヴァンパイアの眉間に狙いを定め、引き金を引いた。

 弾は空気抵抗の影響を受けながら進んで、俺の狙い通り眉間に突き刺さった。小太りのヴァンパイアは血を吹き出しながら倒れる。

 Cランクの威力でもモブ兵は倒せるらしい。

 ヴァンパイア集団はいきなり仲間が殺されて困惑している。

 俺は狙いを定めて、次々と奴らを殺していく。

 奴らが防壁の目の前に来る頃には、残った数は半数以下になっていた。

 が、これ以上は防壁が邪魔で狙えない。俺は狙撃をやめてレイラを見た。


「どうだ? 俺の実力は。口と数値だけのどっかのバカとは違うだろ?」

「カッチーン! いいわ。私の実力を見せてあげる」


 俺達は急いで戦場に向かった。

 剣の交わる金属音や爆発音が鳴りやまない。弓矢、弾丸、魔法の雨嵐。

 まさに戦争状態だった。

 俺がかなり数を減らしてやったはずだが、やはりヴァンパイアというのは手ごわいらしい。数では勝っていても、優勢なのは敵側だ。


「シャハハハハハッ!」


 と、邪悪な笑い声を上げながら、三人のヴァンパイアが襲ってくる。

 俺はすぐに胸についている筒を取った。筒は一瞬にして姿を変え、拳銃に変化した。

 レイラの言う通り、完璧に再現できている。形状記憶合金でできたスーツと武器。普段は小さくまとまって、体中のあらゆるところに潜ませているが、俺の意志一つで一瞬にして早変わりする。

 左胸に筒状に変化して付いていたこいつは、一番スタンダードなハンドガンで近中距離用。名前はレッドガン。

 俺は得意の早撃ちで、三人のヴァンパイアの頭を吹き飛ばした。

 次は左肩からカタナを取り出す。道を塞ぐヴァンパイアを二度斬りつけ殺す。右ふくらはぎ横のボタンを押せば、灼熱の炎を纏うファイアレッグ。左ふくらはぎ横のボタンを押せばなんでも吹き飛ばすパワーレッグ。どちらも一撃で殺せた。

 次のヴァンパイアは銃を持っていた。俺の一瞬の隙を付いて撃つ。

 そういうときは、右胸にあるブルーガンだ。弾は針のように小さく反動がほとんどないハンドガン。レッドガンほどの威力はないが、速くて命中精度が高い。近距離からの早撃ちや暗殺に向いている。

 ブルーガンの弾丸は、敵の弾のど真ん中を破壊しながら貫通し、そのまま心臓へ突き刺さった。

 右もも横にあるのはサブマシンガンのエースで、一瞬にして何十という数の弾丸を浴びせる。

 右肩には手榴弾のサイクロングレネード。威力は抑えめにして、周りになるべく被害を出さずに敵を殺す。

 腰に巻かれたベルトから、右後ろについている筒を取り出す。筒は一瞬にして片手サイズのショットガン、その名もショットアイズ1.0へ変化する。

 ベルトには他に、左後ろ、両横、へそ上部分にそれぞれ四つのアタッチメントが付いていて、それを反時計回りにショットアイズに取り付けることで威力と大きさが増大する。

 例えば、右横にあるアタッチメントを付ければショットアイズ2.0、さらにへそ上にあるアタッチメントを付ければショットアイズ3.0に強化される。

 俺の横に立っているだけで、未だに一人も倒せていないレイラに向かって言った。


「どうだ俺の実力は。近距離も大好物だぞ? ん?」

「へん! 全然だめね。よく見なさい」


 ラミアは魔法の杖をディードおよびその周りにいるヴァンパイアたちに向けて呪文を唱えた。


「ダーク・サンダーボルト!」


 すると、ディード達の頭上に紫色の魔方陣が表れる。そしてそこから、黒色の激しい稲妻がほとばしる。地面と激突し、轟音響く大爆発を引き起こした。

 敵も味方も吹き飛ばして、レイラは誇らしげに笑う。


「どう? 今のは最高難易度の魔法なのよ。魔力消費量が激しくて、普通は一日一発が限度なの。けど見て。私はまだまだ余裕。そしてこの圧倒的火力」

「何が火力だこのど素人が。周りの被害も考えずぶっぱなしやがって!」

「あら嫉妬?」

「そんなわけあるか。誰があんな子供みたいな」

「そうねあなたのは……おままごとみたい」

「なんだと」

「あなたのは地味すぎ。超カッコ悪い。私のは超ド派手でおしゃれ。おまけにカッコいい」

「それは……! くそッ!」


 ちくしょう言い返せねえ。


「チッ、人間ごときがいかれた威力出しやがって……」


 ディードは無事だったらしい。悪態をつきながらも、高らかに笑う。


「バカめ! 味方まで吹き飛ばしやがった。お前ら二人じゃ俺様には勝てない!」


 だが、そんなディードの言葉なんて耳から耳に受け流して、俺達は喧嘩を続けている。


「言い返せないんだから、この勝負は私の勝ちね!」

「は? おい待て。それとこれとは話が別だ!」

「フハハハハハッ! なぜ貴様らじゃ俺様に勝てないか教えてやろうか? それはな――」

「別なわけないでしょ。私の方が破壊力も抜群!」

「俺の方が殺した数は多い」

「――俺様は第二魔王に仕える幹部が一人――」

「私が最初から本気出してたら、私の方が多かったわよ」

「いいや。お前は味方を倒しすぎだ。その分マイナスだ」

「そんなルールありません。勝手に付け足さないでください」

「――ディードだからだ! ハーハッハッハッ八ッハッ!」

「戦場で味方を倒したら減点されるのは当たり前だろ」

「戦場で足手まといになる方が問題よ」

「さすが性悪。だったら――」

「フハハ、おい!」


 ディードが地団太を踏みながら言った。


「さっきから無視するなお前ら!」

「うるせえぇぇ! さっきからごちゃごちゃと、今話してんだろがあぁぁ! 殺すぞ!」

「え……いや、はい。すみません……」

「いいかレイラ。プロは余計な被害を出さない。お前みたいな悪目立ちしたがりなバカと違ってクールなんだよ」

「くだらない言い訳。弱いだけじゃない」

「お前だってドヤ顔しときながら、あいつ倒せなかったじゃねーか。見ろピンピンしてるだろ」

「あっ、言ったわね。じゃあいいわ。どっちがあいつを倒せるか勝負よ」

「ああいいぜ、受けて立ってやるよ」

「あ、あのぉ……そろそろ、お話の方は……」

「まずは私から! ダーク・サンダーボルト・マキシマム!」


 き、きたねえ……。

 この性悪女。相手が油断してるタイミングで最大火力を。しかも先行を取りやがった!


「どうよ。残り魔力のほとんどを大放出した攻撃よ」


 確かに。さっきの魔法とは比べ物にならないほどの破壊力だ。足に力を入れて踏ん張らなきゃ爆風で吹き飛んでしまうところだった。

 雷が落ちた場所は数メートルに及ぶクレーターができていた。

 だが残念なことに、煙の中で人影が揺れた。


「俺もお前と同じく、得意魔法は雷。耐性があるんだよ!」


 ディードが雷を放った。

 レイラは防御魔法で壁を作る。

 俺は左腕の腕輪に付いている取っ手を右側に回す。腕輪から高速で体を覆うくらいの大きさの盾、ビッグスターが作り出される。


「ほら見ろ殺せなかった。魔王が聞いてあきれるな」

「な、なによ! だってまさか雷耐性があるなんて聞いてないわよ!」


 五段階装着のショットアイズを何発か放つが、やはりディードの魔法壁はびくともしない。


「はっ、御託はいい。ほら盾。盾になれ早く!」


 レイラに盾になってもらうと、俺はビッグスターを解除した。


「な、なにしてるわけ?」

「対大型戦車用の巨大ランチャーだ。そのためには全ての武器を装着しないといけない」


 ショットアイズ5.0に体中にある武器を取り付ける。形状記憶合金は次々と形を変え、より大きいランチャーへと変化していく。

 そして最後に、弾丸となるサイクロングレネードを詰めて、サイクロングレネードランチャーの完成だ。


「よし、いいぞ。どけレイラ」


 ディード攻撃が一瞬切れた隙に、レイラが横にはける。


「くらえ!」


 地をも揺らす爆音とともに、弾丸が放たれた。

 ディードの魔法壁をゆうに破り、やつの体に大きな風穴を作り、さらにその先まで爆発を起こしながら弾は進む。

 ディードは血反吐を吐いた。


「バ、カな……!」


 ディードは完全に力尽きて死んだ。

 俺は勝ち誇った顔で、レイラを見た。


「俺の勝ちだな!」

「なっ、ずるいわよ! 私が散々弱らせた後で美味しいとこ持っていくなんて!」

「お前が勝手に先行取ったんだろ! それに全然弱ってなかったじゃねーか。ピンピンしてたぞ!」

「ポーカーフェイスよポーカーフェイス!」

「いいえ認められません。それにルールはルールです。倒したのは俺!」

「私が盾になってあげたからでしょ。じゃなきゃあなた、技撃つこともできなかったくせに」

「お前だって不意打ちじゃねえか!」

「私はたとえ攻撃を受けてても撃てましたー!」

「バーカ。たとえ撃てても大した威力は出せねーよ。あんな地味ーな攻撃しかな」

「なっ!」


 俺は爆炎が揺らめき立つ攻撃の跡を指さした


「見てみろ俺のは超派手な…………」


 今、二人して改めて攻撃の跡を見て、気づいたことがある。


「…………」

「…………」


 どうやら俺達は、敵と戦ううちに、敵が外側で俺達が内側という構図から、敵が内側で俺達が外側という、真逆の構図へ変化してしまっていたらしい。

 つまり、俺の放った弾丸は、ディード体を突き抜け、防壁すら破壊して、町中を焼け野原にしてしまったらしい。

 

「…………いやー……流石だな。うん。レイラ、あれは全部お前の手柄だ」

「なっ、ちょちょっ、待ちなさいよ! あれ撃ったのカイでしょ!?」

「何言ってんだよ。全部レイラさんの力ですって」

「ふざけんじゃないわよ! 私の力なんてカイさんに比べたら蟻んこ同然です。私じゃこんな破壊力出ませんって」

「いやいやいや、謙遜しないでください。これぜーんぶレイラのおかげ。なにもかもぜーんぶレイラの力」

「まさかまさか。私なんて敵に一ダメージも与えられない地味な攻撃しか持ってませんから」

「いい加減にしろよお前! 人の好意をなんだと思ってる!」

「なにが好意よ責任逃れしたいだけじゃない!」


 でこぼこクレーターと、真っ赤な炎が残る戦場後で、俺達二人だけがぽつんと立っていて、喧嘩はその後三時間近く続いた。

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