第2話

「で、具体的には俺は何をすればいい。その神々に選ばれた転生者とやらをぶち殺せばいいのか?」

「いいえ違うわ。魔王は全部で七人いるの。だから、私以外の魔王を全員倒してほしいの。私は神じゃないから、あなたにチート能力を授けることはできない。精々、コアワールドに体を適応させてあげることだけ。でもあなたなら、それで十分でしょ」

「さあな。だがわかった。やることは普通の転生者と変わらないんだな」

「そういうこと。じゃあ早速行きましょ!」


 レイラが指を鳴らすと、二人を囲むように床に白い魔方陣が浮かび上がった。

 体が光に包まれる。

 そしてその一瞬後、俺達は町中に立っていた。RPGゲームのような、似非中世風の街並みと人たちだ。


「ここは?」

「いわゆるリスポーン地点ね。町の名前はロックス。通称冒険者の町」

「冒険者?」

「モンスターを討伐して、その賞金で暮らしてる職業のことよ」

「何から何まで、ゲームみたいだな」

「とりあえず、ギルドに行きましょ。そこで自分のステータスを確認して、職業登録をするの」


 レイラの案内で、俺はギルドと呼ばれるクエスト、およびその賞金と冒険者をつなぐ斡旋場に向かった。

 どこもかしこもゲームの世界みたいだが、これでもちゃんと生きてる人間らしいから驚きだ。

 そういえば、こんなゲームはほとんどやったことがなかった。そう思うと、自分でも無意識のうちにこれから始まるここでの生活を楽しみにしてることに気が付いた。

 ギルドの中は食堂のある宴会場みたいで、多くの奴が昼から一杯やっていた。他にも保健所、温泉、銀行、武器チューナー所、土産屋なんてのもある。

 俺達はまっすぐ扉を開けて正面にある受付に歩いた。


「ご依頼ですか?」


 受付は赤い髪と瞳で、眼鏡をかけたインテリな雰囲気な女だ。平べったい胸の上につけられた名札にはアリサと書いている。


「いいえ。私たち、冒険者になって、パーティーを組みたいの」

「では、右手にあります測定器の中に入ってください」


 電話ボックスくらいのサイズの円筒上にガラスで覆われた場所。これのことか。


「俺から行く」


 俺が測定器の扉を開けると、ギルド内の空気が一変して、みんなが俺を見た。


「新しい冒険者の登場だぜ!」


 誰かが口笛を吹いた。


「おいあんた俺のパーティーに入るか!?」

「まてまてまずは結果を待たなくちゃな。弱虫泣き虫が入ってきたらたまらないぜ!」

「さっさと測定しちまえよ兄ちゃん!」


 なるほどな。要はこいつら、野次馬ってことだ。

 目立つってのは嫌いじゃない。

 俺は連中に煽られながら測定器の中に入った。すると、ガラスが青色に光り、頭上では赤い輪っかがぐるぐるしている。数秒経って光が消え、アリサが「測定終わりましたー!」と声をかけた。

 俺はアリサから、冒険者カードを受け取る。


「それぞれランクはA~Eの五段階で分けられます。知能B、射撃A、剣技B。それ以外はオールC。総合ランクはBマイナス。レベル一でこのステータスはすごいですよ!」


 アリサがステータスを発表すると、ギルド中から歓声が上がった。


「ようこそエリート兄ちゃん!」


 そうこうしているうちに、レイラも測定を終わらせたらしい。

 アリサはレイラの冒険者カードを見てぎょっとした。


「す、すごい! 知能C、射撃B、剣技B。これ以外はオールA。総合ランクはBプラス! これ、すごいことですよ!」


 俺のときより倍は大きい歓声が上がった。

 なるほど。さすがは魔王というわけだ。


「ふふん。まあこれくらい当然よ」


 そう言って、レイラは俺に向かってドヤ顔をしてきた。私の勝ちね、と言いたげな顔だ。


「知能と射撃は俺の方が上だ」

「そんなの小さな差よ。ぷっ、知能が戦いのなんに役に立つっていうのかしら」

「そんなことも分からないのか性悪女。バカの極みだ」

「なっ、言っとくけど私は頭がいいって言われて育てられてきたんですけど」

「はっ、その結果がこれか」

「数値で測れないところに本当の頭の良さがあるの」

「じゃあお前のどこが頭いいのか言ってみろ」

「モスバーガーの具を一回も溢すことなく食べれるわ」

「それは頭の良さとは関係ない」

「じゃああなたはできるのかしら」

「そんなことできたって意味ないだろ」

「あなた今モスバーガーをバカにしたわね。もういいわ、あなたにモスバーガーを食べる資格はない」

「お前をバカにしたんだ。第一モスバーガーは――」

「――もういいですから!」


 レイラが慌てて間に入って止める。


「モスバーガーモスバーガーうるさいですよ! 大体なんなんですかそれ」

「いや、なんでもない」

「……じゃあ、冒険者カードになりたい職業と冒険者ネーム書いて提出してください」


 俺の選べる職業は中級職以下ばかりで、唯一なれる上級職はアークスナイパーだけ。


「クロサワ・カイ……? 変わった名前ですね。冒険者ネームはデッドブレッド。職業は上級職のアークスナイパーですね。レイラ様はそのままレイラ。職業は上級職のワイズマンですね」

「ちょっとまって、私は女よ。ワイズクイーンと呼んで」

「は、はあ……」


 や、やっぱりバカだこの女……。


「で、では……。お二人の幸運を祈っています! クエストクリアを目指して頑張ってください!」


 こうして、俺の華々しい冒険者生活がスタートした……かに見えたが。

 突然、ギルド中に警報が鳴り、照明が赤く点滅する。

 アリサは受付の奥にある何かの画面を見ると、顔を青ざめて、マイクの前に立った。

 ギルド内の冒険者たちもそわそわしている。


「緊急クエスト発令! 繰り返します。緊急クエスト発令! これは訓練ではありません。繰り返します。これは訓練ではありません! 南側、防壁からおよそ五百メートル先にヴァンパイアです。数はおよそ百。先導しているのは、第二魔王の幹部ディードです!」


 冒険者たちは皿やジョッキをそこら中に放って、急いで戦闘準備を始めた。

 魔王の幹部、そして皆の反応からして、相当手ごわいらしい。


「だが、魔王のお前がいるなら幹部くらい余裕じゃないか?」

「当ったり前、と言いたいところだけど、第一から第三までは段違いに強いの。幹部といえど楽勝かどうかは……というか私痛いの嫌いだし戦わないわよ」

「とことん性格悪いなお前」

「てことで、あなたがなんとかしなさい」


 そう言って、レイラが俺にアタッシュケースを投げつけた。

 ずいぶんと重い。中を開けると、見覚えのある服と武器一式。


「あなたが元の世界で使ってたやつを魔道具で再現したの。バトルスーツと、武器凶器」

「上出来だ性悪女」


 冒険者になりたて早々、俺の大型クエストが始まった。



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