異世界ヒットマン! with魔王
塩コンブ
第1話
「よく来たわね。おつかれさま」
その日の俺は、本当についてなくて。
朝から犬の糞は踏むし、女の子には振られて。挙句の果てに車に轢かれて死んだ。
でも、一番の不幸はきっと、この性悪女と出会ったことだろう。
一番最初、俺はこいつを女神だと思った。
車に轢かれ、ああ俺死ぬんだな……なんて考えたら意識が途切れて、目が覚めたら城の王宮みたいな場所にいて、目の前の王座に超美少女が座っていた。
あまりの美貌に目が離せなかった。胸は巨乳というより爆乳で、そのくせすごく綺麗な形をしている。腰はスリムなのに尻から太ももにかけては程よくデカい。
髪はロングの透き通るような濃い紫色で、長いまつ毛の奥にある、金色の瞳は宝石みたいに光っている。
顔はまさしく、千年に一人って感じで見ただけでわかるすべすべ肌。
こんなやつが死んだ後目の前にいたら、そりゃ女神だって思う。ほっぺをつねったわけじゃないけど、俺の貧相な頭じゃこんな幻覚作り出せないから、夢でないことはたしかだ。
「お前は死んだ」
「知ってます。俺は天国行きか? 女神様」
女神、と俺が言った瞬間、目の前の美少女は頭に怒りマークを浮かべた。
「神……? 失敬ね、あんな詐欺師と一緒にしないで。私は第六魔王のレイラよ」
「魔王……?」
何を言っているのかまるで理解できていない俺に、レイラはふふんっと胸を張って言った。
「あなたは一度死んで、私の手によって異世界転生したの!」
「………………は?」
「えっ!?」
まるで、信じられない生き物を見るかのような目だ。
「異世界、転生……?」
「噓でしょ!? ほんとに知らないの! 今のトレンドよ?」
「悪いが流行りには疎い。その……異世界転生ってなんだ」
「今の神々のトレンドね。要は神の小間使いよ」
「わかりやすく言ってもらっていいか」
「あなたみたいに若くして死んだ人たちを、この異世界に記憶をもったまま転生させるの。ここ、コアワールドは全ての世界の中心。この世界が壊れたら、他全ての世界も崩壊してしまうわ。だけどこの世界には、世界の掌握を狙う魔王がいるの。まさに全世界の危機。だから神々は、死んだ人間に超強い能力――チート授けて、転生させるの」
「よくわからないが、そんなに魔王が危険なら、神が直接倒せばいいだろ」
「そうもいかないの。神が下界で直接人間を助けることはできないのよ。いろんな影響が出ちゃうから。ほんとは能力を授けることだってグレーなんだけどね。そうやって間接的にしか助けられないの」
「なるほど。ギリシャ神話の英雄みたいなものか」
「そうそう! まあ、子供は大きくなるの時間かかるし、神の血が入ってるものは怪物を引き寄せるから、今ではもっぱら転生なの」
なるほどな……。にわかには信じられないが、一応筋は通っている。
「……で、なぜそれを魔王であるあなたが?」
「そうそこ! 私が言いたいのはそこよ。
「性悪」
ドヤ顔でピンと背筋を伸ばし、指先を俺に向けるレイラにそう言い放った。
面と向かって、初対面の相手に小間扱い。
顔は抜群に良いと思ったら、とんだ性悪女だった。
「あんたの言いなりになってせっせと働けって? 冗談じゃない」
「いくら転生させるって言っても、本人が望まない限り勝手にはしないの」
「は?」
「でもそれは逆もしかりで、神々が認めない限りは転生させないの。例えば、人殺しの極悪人とかね」
「………………」
「武器凶器のエキスパート。伝説の殺し屋――デッドブレッドさん」
「何が言いたい?」
「あなたは死んだ。本当ならそのまま天界に送られて、そこで地獄行きが告げられる。けどそのギリギリで、私が奪い取って、無理やり転生させたのよ。けど、私の意志一つでやっぱり神々に送り返すこともできる。そうなったら間違いなく地獄行きね。あそこは相当苦しいらしいよ」
「好きで殺しをやってたわけじゃない。……いやまあ、多少は」
「そんなこと神が気にすると思う? 私のいいなりになるか、地獄で死ぬよりつらい目に合うか。どっちがいい?」
「それは脅しか?」
「だったらどうするの?」
「性悪女が。…………いいだろう、お前の言う通りにしてやる。だが、俺を脅したこと、忘れるなよ」
「おっけー」
レイラは満足そうにうなずいた。
これが、俺とこいつが手を組むことになった理由で……俺の途方もない不幸の連続のはじまりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます