第11話
スキル獲得音声さんのツッコミによりかなり冷静さを確保できた俺は、エスカレーターを上りキャンプ用品のお店に着いた。
「全部キャンプ用品なんだ」
ここの百貨店は結構な面積を誇るはずなのだが、一フロア丸々キャンプ用品のお店らしい。
結構昔から人気な趣味だが、ダンジョンがこの世に生まれた事で需要が減った的な話を聞いたことがあるけれど、見た感じ完全に盛り返したらしい。
「ああ、なるほど」
そんな疑問は、とあるゾーンの存在で解決した。
『タイガートレントの超軽量大容量テント』
『食べさせて処理するゴミスライム』
『超大容量!車すら充電できる魔石発電機』
キャンプ業界はモンスターの素材を使う事で利便性が向上し、より身近になったんだな。
「高いけど」
値札を見ると、最低でも5千円を超えていた。それがあれば中古の本が50冊買えるんですよ。
ちょっと欲しい物もあったが、目的のバーナーは無かったので何も手に取らずにこの場を去った。
そして探す事数分、ようやく目的のバーナーを見つけた。
俺は何十種類もあるバーナーの中から、最も火力が高いであろうバーナーを選んで購入した。こちらは2000円足らず。非常にお手頃だ。
目的の物を買って大満足の俺は百貨店の出口へと向かう。
その道中、凄まじい揺れが発生し、電気が消えて真っ暗になった。
「なんですの?」
「真っ暗!」
「とにかく脱出しなければなりませんね」
流石の金持ちっぽい皆さんもこの異常事態に冷静になることは難しいようで、慌てた様子で階段に走っていっていた。
「何かがおかしい」
この揺れは確実に震度4とかで済まされるレベルの揺れでは無い筈なのに、ほんの一瞬で収まった。
それに、この程度の揺れ時間なら停電になるのはおかしい。
俺は若干の不安を覚えつつ、人が居ないエスカレーターの方から下に降りることにした。
「キャー!!!」
「早く逃げてください!!!!」
辿り着いた2階は、阿鼻叫喚の嵐だった。
店員が避難誘導し、客が半狂乱になりながら窓に向かって避難している。
「まさか……」
俺は近くに居た店員に声を掛けた。
「あの、すみません、もしかしてダンジョン発生ですか?」
「はい。ですので早く避難してください!」
ダンジョン発生。その名の通り、ダンジョンが発生する現象の事。
ダンジョンにおいて一番死亡率が高いのはダンジョンボスに挑む時でも、油断している時でもない。
このダンジョン発生のタイミングだ。
というのもダンジョンが発生する時、周囲にある物質を引き込む性質があるのだ。
基本的には山だったり海だったり道路だったりするので被害というのは起こらないのだが、建造物の場合は例外だ。一般人が建物ごとダンジョンに放り込まれるのだから。
今、二階の窓から脱出している所を見るに、地下一階だけでなく一階まで巻き込まれているのだろう。
「俺、探索者なので助けに行きます!」
「はい、お願いします!」
モンスターはダンジョンに引き込まれた層全てから発生するため、一刻を争う事態だ。武器が無いとか言ってられる状況ではない。
俺は人の海をスキルで得たパワーで掻き分け、1階へと降りた。
「マジか……」
そこに居たのは人型の魔物であるゾンビ。最下級であるスライムやゴブリンの一つ上、Eランクに相当するモンスター。
Fランクはレベル1でもどうにか倒せるレベルだが、Eランクはレベル10を超えていないと倒せないレベルだ。
つまり、今の俺は戦うべきではない。
が、しかし戦わなければならない。
「キャアアアア……グオオオオオオ!!!」
その原因はゾンビの性質。倒した相手を同じくゾンビに変えてしまうというもの。
ゾンビに変えられた人間はダンジョンの外に出ることが出来てしまうので、全力で押さえなければならないのだ。
「探索者の俺が食い止めるので、皆さん速やかに逃げてください!」
ひとまず、スキルで強化された声で注意を引きつつ避難を促した。
「グオオオオ!!!」
何よりも大きな声だったため、ゾンビの意識は全てこちらを向いた。
「ほら、かかって来いよ!」
俺は全力で挑発しながら、皆が居ない方向へと逃げつつ武器になりそうな道具を探す。
攻撃力だけはあるので、Eランクでも足が腐っていて動きが遅いゾンビなら素手でも倒せるだろうが、防御力は紙なのでリスクが高すぎる。
しかし、ここは一階。あるのは化粧品メーカーや、婦人服、カバン屋ばかり。殺傷力が高めの武器は存在しない。
「なんかないのか……?」
いくら足が遅いとはいえ、このデパートの構造を知らない俺は逃げるのにも限界がある。
「これだ……!」
そろそろ倒していかなければ囲まれるというタイミングで、丁度良い物を見つけた。
それは日傘だ。
「ある程度丈夫そうだ、これなら……!」
ビニール傘と違い、高級なものであるお陰なのかかなり丈夫だった。
「グオオオオ!」
出来る事なら10回程素振りをしてスキルを獲得したかったが、そんな様子は無いらしい。
「オラ!!!」
俺は正面に居るゾンビに向かって真っすぐに傘を振り下ろす。
バキッ!!!!
ゾンビの頭を砕くことには成功したが、同時に傘も砕けた。
「一撃一本かよ……!?」
相手の強さを把握できない以上、手加減をすることも出来ない。つまり、傘の本数がゾンビを倒す事が出来る数。
「たったの十本か……」
今ここにあるのは十本だが、目の前に居るゾンビの数は十五体。そして、傘を取りに行ったせいで壁に追い込まれている。
あまりにも考えが甘すぎた。
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