第39話

 私は部屋に敷いた布団の上に倒れこみ、枕に顔を押し付ける。

 火照った顔の熱さが、夜風を浴びる布の冷たさで幾分か和らいだ。

 西戸崎くんが生徒会長を嫌がっていることはわかってた。

 でも、体育館で堂々と自分の意見を述べる西戸崎くんはとっても堂々としてて、普段のギャップがすごかった。

 グループと距離を取るための口実を一緒にいるための理由にしたのは、ずるいやり方だ。少し気分を害してしまったように見えた。

 でも。それでも。

 私は彼と一緒にいたい。彼と一緒なら、きっと私を守ってくれる。西戸崎くんは頼りなく感じたけど、今日みたいに怖い相手にも立ち向かえる人だ。

それに私の病気のことを知っても、笑わず、茶化さず、上っ面だけの醜い同情を見せつけることもなく。真正面からぶつかってくれた人は、男女問わず初めてだった。

 両親も友達も、「それくらい病気じゃない」と言い張るだけ。

 医者は「数ある患者のうちの一人」という対応だし、看護師さんも似た感じ。笑顔の裏に「ああ、またか」という態度が透けて見える。

あのクソ野郎ども。

 いけないいけない、こんな風に毒づく習慣がついているといつグループのメンバーや西戸崎くんに聞かれないとも限らない。

 今まで西戸崎くんをいいな、と思う瞬間はあっても胸が高鳴ることはなかった。これは恋じゃなくて友情とか親愛とかそういうものなんだって思ってた。

 ラインでしかやり取りがなくなったときに寂しく感じたけれど、友達がいきなり疎遠になったから。だから、心に穴が開いたように感じたんだ、そう思ってた。


『西戸崎くん、いい人だし、優しいし…… 一緒にいて、本の話とかできて、楽しいから」』


 でもあの言葉を口にした時。彼と一緒にいて楽しい、そう言った時。

 初めて胸に熱いものを感じて。でも西戸崎くんの前でその気持ちを顔に出すのが、恥ずかしくて。感情を押し殺すために無理に笑顔を浮かべた。

あの時西戸崎くんは、私の表情をどう感じたのだろう。

 西戸崎くんとついさっき会ったばかりなのに、また会いたくなってきた。

 スマホのロックを解除して、ファイルを検索して…… すぐに止めた。

「そういえば、西戸崎くんの写真なんて一枚も持ってない」


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